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遥か彼方の辺境で:映画『180° South』DVD/Blu-ray発売

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今年1月22日から劇場公開がスタートし、熱狂的な口コミにより2万人以上の動員数を記録、全国約50館にて拡大公開となっている映画『180°South』DVD/Blu-rayが7月6日(水)より発売開始しました。パタゴニア直営店およびオンラインショップ正規取扱店では限定1500枚のDVD(パタゴニア・エディション)も販売しています。

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映画『180°South』のDVD/Blu-rayの発売にあたり、この旅の舞台となったチリ領パタゴニアに危機が迫る昨今、パタゴニア・ブックスから発売中の書籍『180° South』の出版のために2008年に執筆したこのストーリー(本には未掲載)をぜひ読んでいただきたいと思います。同名の映画を撮影した際、私は漁師やガウチョ(カウボーイ)や自然保護活動家とともに数か月間チリに滞在しました。近くを流れる川の音を聞きながら星空の下でキャンプファイヤーを囲み、そうした人たちの話を聞くという貴重な体験をし、またダムの建設予定地や、ダム建設によって危機にさらされる土地や人びとの暮らしをみずからの目で見ました。写真はダム建設反対運動の最前線で戦う人、そしてダムによって多大な影響を被る人たちです。彼らに、そしてダム建設反対に立ち上がってくれた皆さんに感謝します。けれども戦いはまだ終わっていません。

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ガウチョのエデュアルド・カストロ。ヴァレ・チャカブコ、チリ。All photos © Jeff Johnson]

ヴァレ・チャカブコ
by ジェフ・ジョンソン

早朝のことだった。太陽はまだ山の向こうに隠れていた。寝袋をバックパックに押し込んでいると、1人のガウチョが近づいてきた。

「コーヒーどうだい?」 彼は皮のボタバッグを手渡しながら「うまいぜ」と言った。

「いいね。グラシャス」 私は知っているわずかなスペイン語で答えた。

皮の袋を高く持ちあげて傾け、ノズルを口に当てて袋を絞った。むせて噴き出し、前屈みになると口に残った液体を舌で転がした。まさか赤ワインだとは思ってもみなかった。

「これがコーヒーかい?」と口を拭った。

「そうさ」とガウチョは笑った。「赤コーヒーさ」

私はもうひとくちごくりと飲んでから、「うん、うまい」と言った。

何度もフェリーを乗り換えてから未舗装の道を2日間運転し、ようやくパタゴニアのはるか彼方のエスタンシア・ヴァレ・チャカブコに着いた。ここは過放牧によって土壌が損なわれた大牧場を〈パタゴニア・ランド・トラスト〉のクリス・トンプキンスが2004年に購入した土地だ。家畜はすでに他所へ移されたあとだった。この土壌を回復させ、17万エーカーの山や谷に張りめぐらされた700キロにおよぶフェンスを取り除いてコリドー(野生の回廊)を作ることを目標に、パタゴニア社はエスタンシア・チャカブコに3週間ずつ社員を給与付きで派遣するプログラムを実施している。マコヘ、キース、イヴォンと私もフェンスの撤去作業に加わった。

カサ・デ・ピエドラの寄宿舎を出てからガウチョの案内で馬に乗り、ヴァレ・チャカブコのあちこちを視察した。岩の川床をいくつも横切り、深く冷たい川を歩き、北東にある小さな谷に入った。ガウチョが先頭を行き、切り立った断崖を成す峡谷の左上に進む。川の急流の音が谷間にこだまし、アンデスジカの小さな群れが丘陵の斜面を駆け上がっていった。谷壁から突き出した断崖のうえにキャンプを設営し、谷壁の上から川までつづく古いフェンスや支柱、有刺鉄線を1日中取り除いた。

その晩、たき火の前で横になって足を温めながら、光り輝く星座を見つめた。折れた小枝に肉を刺し、たき火であぶった。丸太に座ったガウチョのアルフォンゾ・ルイーズとエラズモ・ベタンコーレがアコーディオンとギターで地元の民謡を演奏し、曲の合間にエラズモがリオ・バケルのダム建設案について話した。政府や建設会社は地元住民に何も告げないままダム建設を押し進めてきた。ダム建設案に気づいた地元住民は『Sin Represas(ダムはいらない)』という草の根運動をはじめ、なかには「死んでも守る」と断言するガウチョもいる。

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ガウチョのアルフォンゾ・ルイーズ。ヴァレ・チャカブコ、チリ

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ガウチョのエラズモ・ベタンコーレ。ヴァレ・チャカブコ、チリ

「ひどいもんさ」エラズモが言った。「俺にってわけじゃない。後々ここで暮らしていく家族にとって大問題なんだ。サンティアゴなんかの大都市に住むやつらはパタゴニアに対する愛情なんてないだろうさ。だが俺たちは実際ここで生まれ育ち、暮らしているんだ。やつらにとってはパタゴニアは誰かに売ったりやったりする場所なんだ。いままでもずっとそうだった」

ダム建設はチリの非常に重大な社会的/環境的問題だ。独裁者ピノチェトの統治下でチリは川の水利権の大半を民間企業に与え、以来スペインの電力会社エンデサがチリ国内に系統的にダム建設をはじめとするエネルギー計画を次々と導入してきた。計画のひとつはチリ領パタゴニアに残された最大級の野生の川リオ・バケルに5基の水力発電ダムを建設するというものだ。多くの人びとの暮らしはこのリオ・バケルをよりどころにしている。ラモン・ナヴァロパルプ工場に関して「コンスティトゥシオンはチリで最も豊かな文化のあふれる場所のひとつだった。だがパルプ工場が建設されて、すべてが台無しになった」と語ったが、ダムに関しても同じことがいえるだろう。

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カニ漁師。コブケクラの町近辺、チリ

北部の大都市に電気を送るには2,400キロにおよぶ高圧送電線の建設が必要で、パタゴニアからサンティアゴまでの送電線ルートはブルドーザーで整地されることになる。この計画が実現すると、ここは世界最大の皆伐地帯になるといわれている。水力発電は核エネルギーよりはるかに安全だ。けれどもそれなりの影響もある。それは非常に複雑で、私には答えは出せない。だが、ダムという時代遅れの方法以外になんらかの代替案があるはずだ。風力発電は?太陽光発電はどうなったんだ?非効率だという意見もある。しかし私たちは代替案に十分な時間と努力を費やしてきただろうか?思うに、諸悪の根源は増加の一途をたどるエネルギー需要ではないだろうか。まず変わる必要があるのは、私たち消費者だ。

旅に出たのは6か月前。日常からはなれ、誰も乗ったことのない波に乗り、誰も登ったことのない山に登るのが目的だった。旅はジョン・ミューアという名の男がセオドア・ルーズベルト大統領をバックカントリーに連れ出して説得したことにより国立公園となったヨセミテではじまった。その後、動物が主導権を握るガラパゴス島に滞在し、ラパ・ヌイ(イースター島)では人びとが生活の基盤を忘れて過剰な要求を満たすために、資源を使い果たしてしまった行末を見た。母国を守るために人生を捧げるラモン・ナヴァロとも一緒に過ごした。当初の目的以上に意義のあるものとなったこの旅は、チリのヴァレ・チャカブコでいよいよ終わろうとしている。ここもまた一度は脅威にさらされ、数人の環境保護活動家によって救われた野生の土地だ。最も辺境の地でさえ追いつめられ、そして人間が直面する最大の脅威は人間自身なのだということがわかる。だが同時に最大の違いを生み出すのも政府や大企業ではなく、戦って自然を守ろうとする私たちひとりひとりなのである。

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カニ漁師。コブケクラの町近辺、チリ

朝キャンプ近くの小川で顔を洗い、銀青色に澄んだ水を飲んだ。立ち上がるとボタバッグを手にしたエラズモがいた。

「コーヒー?」 彼は微笑みながら言った。

「うん」 今朝は彼のいたずらを承知でボタバッグを受け取った。

ひと口飲もうと頭を後ろに傾けると、エラズモと目が合った。マテ茶であろうとワインであろうと、彼はいつも視線を合わせる。仲間意識なのかもしれない。まるで「俺たちはここに一緒にいるんだ」と言っているようだ。私は「赤コーヒー」を数口飲んだ。エラズモも飲んだ。エラズモは馬に戻ってサドルバッグを結びつけると、焼いた肉をひと切れ口に放り込んだ。すべては体に染み込んだ自然な動作で、ガウチョたちはもう何世代もそうしてきたのだろう。けれどもこのシンプルな習慣もすたれつつある。エラズモの暮らしとはかけはなれた消費者社会で、私たちは必要以上に物を使う。チリ沿岸の有害パルプ工場が作っているのは、私がアメリカで使う製品だ。ダムは私が暮らす場所や私が旅した場所へと電気を送っている。私たちの要求はエラズモの要求よりはるかに多い。そしてどこかの誰かの多大な要求を満たすために、エラズモの川にダムが建設される。まず自分の生活を見直さなければならない。何かを必要以上に使うとき、どこかで誰かがすべてを失っているかもしれないのだから。

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