受け継ぐことのできるもの
かつては赤だったはずのそのジャケットは、いまでは消えない傷や汚れの下で、くすんだピンク色に見えます。ジッパーは4 年前に交換したので、そこだけちょっと明るく、目立ちます。内側には「キッズXXS」のサイズタグがありますが、おさがりの履歴用タグは付いていません。パタゴニアがそれを伝統とする以前の製品だからです。それは約13年前、カイル・アンダーソンの4歳の弟ハックのものとしてデビューを遂げました。そのとき20 歳ぐらいだったカイルは、クレステッド・ビュートのスキー場周辺でハックにスノーボードの仕方を教えながら、当時は赤かったそのジャケットを引率していたことを思い出します。
今日も、その同じフワフワのジャケットは、拡大しつづけるアンダーソン家の一員として、どの子が着ようとも重宝されています。現在では5 人目のオーナーに仕えていることが確認され、おそらく従兄弟の何人かにも着られたことがあるはずです。「マック」ことコーマック・アンダーソンはカイルの末っ子で、現在それを酷使する張本人。セミプロ・スノーボーダーの経歴をもつお父さんのあとについて山をまわり、定期的にバックカントリーへも出かけます。
カイルによると、マックは3歳にして今冬40日以上をスノーボードに費やしたそうです。
情熱的な子供と親たちが成し遂げることは、パタゴニアで働く私たちに、他にどんな可能性があるかを考えさせてくれます。3歳児がスノーボードで何ができるかできないか、私たちが偏見では決めつけない精神を子供たちに受け継ぐことができるとしたら、他にどんなことが受け継げるかを考えてみてください。子供たちが自分と衣類(あるいは他のいかなる物質的なモノ)との関係を想像するとき、それが無駄は少なくより思慮深いものであり得るのだと、思ってもらうことはできるでしょうか。それが消費を抑え、共有できるものであると。そしてその「新しい」ジャケットはじつは新品ではなく、着る子にとって「新しい」だけであるということを、子供は認めるでしょうか。当て布や縫い目には個性的な価値があり、「新品」というタグが付いただけのジャケットよりも、たしかにストーリーを秘めているという考えを受け入れるでしょうか。
ハードに責める山っ子たちの家系に受け継がれながら13年も長持ちするウェアはなかなかありませんが、アンダーソン家の赤いフワフワはパタゴニアのリノのリペアセンターからささやかな愛とピカピカの新ジッパーをもらい、いまも健在です。その袖はマックにはまだちょっと長く、フードはちょくちょく目の下までかぶさってしまいますが、ジャケットもマックもともにひるむことはありません。
「マック、このジャケットよりも大きくなっちゃったらどうする?」
「誰かにあげる」
「それは誰?」
「パパ」
「パパにはちょっと小さすぎるんじゃない?」
「じゃあ木にあげる」
「木はジャケットがいるかな?」
「ううん、いらない。いとこの赤ちゃんにあげる。でもたぶん大きすぎると思う」
そうだね、でもちょっとのあいだだけだよ。
このストーリーの初出はパタゴニアの2017年Fallカタログです。