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ルートはつづく

by ソニー・トロッター

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「ソニー、ホールドがなかったらルートにはならないよ」アレックスがそう下で叫んだ。ハーネスを着け、気楽な様子で笑顔を浮かべて、俺を眺めている。僕はア レックスが握っている9ミリロープの先の空中18メートルあたりで、傾斜のきついのっぺりとした青白い石灰岩に突起らしきものを探していた。背後には谷底までの約300メートルに広がる森が、曲がりくねった青緑色のボウ・リバーに縁取られている。氷河からの水に満たされたこの川は、壮大なカナディアン・ロッキー山脈の真んなかにあるバンフ国立公園の、その真んなかにあるバンフのダウンタウンの、さらに中心を流れている。息を呑むほどの絶景の山々に囲まれているにもかかわらず、僕が凝視しているのは頭上にある次の1.5メートルの岩の盾だった。

「大丈夫、アレックス。ハードだけど絶対にやれるって!」と叫び返してから、 「俺がやるんじゃないけどね」と小声でつぶやいた。

【 「ザ・パス(5.14r) 」上のアレックス、地上から 最初のトライ。カナダ、バンフ 国立公園、レイク・ルイーズ。写真: Ken Etzel 】

ふたたび唸り声を上げながら、ドリルを手に上方に進んだ。肩は焼けるように痛み、腰はフォールのたびにハーネスで擦れて赤くなっていた。それでも僕は菓子屋にいる子供のようにワクワクしながら岩壁のあちこちに指先を走らせ、突起やクラックやポケットのひとつひとつを触っては、指を食い込ませたり足がかりになったりする何か、アレックスを頂上に行かせる何かを探した。

Gear【 生涯かけて磨いたギア配置 の専門知識を受け継ぐには、どれ くらいの時間がかかるのだろうか。 「ザ・パス(5.14r)」を登りはじめる直前にソニーから入門を受ける アレックス。カナダ、バンフ国立 公園、レイク・ルイーズ。写真: Ken Etzel 】

アレックス・メゴスには2年前にカリフォルニアではじめて会った。もちろん評判は聞いていた。この若手ドイツ人クライマーは、地球上最もハードなルートを記録的な速さで登るという国際的な評価を得ていた。他のクライマーが生涯をかけるような計画を、1時間以内という手際で片づけることも珍しくない。そして厳しいトレーニングを10年間積んできたアレックスはいま、たぶん、自分自身がどれほど強靭であるかに気づいてはいないのだろう。アレックスを個人的に知るようになったことは新鮮で、誠実で面白い彼のことはすぐに好きになった。それで翌シーズン、僕はアレックスと彼の家族とともにドイツで過ごした。そしてそのときの手厚いもてなしのお礼に、今度は僕の好きな岩場を紹介しようと彼をカナダに招いた。

だが到着日が近づくにつれて、カナダにはアレックスを退屈させないハードなクライミングルートが十分にはないかもしれないことに気づいた。僕は大好きな岩場でも、世界最強のクライマーには簡単すぎるかもしれない。いつもは自分の限界ギリギリのところでかろうじて登れそうなラインを探すのが僕のスタイルだが、今回は限界を超えたルートを見つけなければならない。いまの世代のクライマー、つまりアレックスのためのルートを。

Deramcatcher【 ドリームキャッチャー(5.14d)」を初のワンデイ・ アセントで手際よく白昼夢に変えるアレックス・メゴス。 1日で達成されなかったものを数えてもこれが第 4 登。 ブリティッシュ・コロンビア州スコーミッシュ。写真: Ken Etzel 】

角度があと2度高ければ、この壁は登攀不可能だろう。ここまで傾斜のきつい壁にこれほど困難なラインを探すのは極めて稀だが、実際にこれをやってのけるかもしれないクライマーが間近にいるということはもっと稀だ。まるでスーパーボウルを企画し、同時に試合の最前席のチケットを握っているようなものだ。すべてのアスリートには挑戦、つまり対戦相手が必要だが、僕はこのルートがアレックスにとって申し分のない対戦相手になると確信した。

ついに頂上に出るための最後の一連のムーブを見つけ出し、疲れ切って地面に下降した。もちろんどのルートも誰かが下から上へと登らなければ完成しない。そしてこのルートを解き明かすクライマーがいるとしたら、それはアレックスだ。ロープの端を交換すると、ルートの初偵察に向かう彼をビレイした。僕は1台のレースカーを組み立て、その鍵をドライバーに渡したような気分だった。

2週間後、アレックスは登頂を果たした。このカタログが印刷される時点でおそらく北米最難のシングルピッチであるルートを完成させたのだ。カナダ初の5.15の誕生は何を意味するだろうか。おそらく、とくに意味はない。それはたんなる数字に過ぎない。挑戦そのものである壁や岩は、つねにそこにあったものだ。そしてこの夏のチームワークと友情が、その挑戦に息を吹き込んだ。

Fightclub【 今日時点でカナダでもっともハードなルート、ファイトクラブ(5.15b)のソロメンバーになるアレックス・メゴス。カナダアルバータ州。写真: Ken Etzel 】

これを後継者へのバトンタッチだと考える人もいるかもしれない。クライミングは情熱を共有する者たちのコミュニティだ。最先端を登っているかどうかは、最終的には関係ない。僕が何らかの形で次世代の優れたクライマーの波を起こす手助けした、と言うのは的確ではない。彼らは何年もの努力と準備で自分たちを作り上げた。ただ「僕の波」は刺激を与えたり、可能性の障壁を打ち破ったりするのには影響したかもしれない ──ヨセミテの「ストーンマスターズ」が僕らにとってそうであったように。これはクライミングを愛する者がいるかぎりつづく。アレックスの力と僕の経験を結びつける機会があったからこそ僕らは冒険に挑み、そして他のあらゆる冒険と同じように、共有することでそれをより豊かなものにしたのだ。

このストーリーの初出はパタゴニアの2017年Springカタログです。

 


現在ソニー・トロッターが妻のリディアと2歳になる息子のテータムと暮らすのは、アルバータ州キャンモアの小さな山間の町。そこは彼がもっともくつろげる場所であり、周囲には彼の母国であるカナダでも最大の岩場と最高の崖のいくつかがある。20年を経ても、彼はいまだにほぼ毎日クライミングをしている。

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