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ランニング・アップ・フォー・エアー:空気のために走る

by ルーク・ネルソン

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僕は息もたえだえに手を伸ばし、笑顔で立っている4人のボランティアとハイファイブをする。2月だというのに山頂の救護ステーションに立ってくれている彼らに、喘ぎながら感謝する。ステーションを回り込み、下の谷につづく急な雪のステップを早足で4歩か5歩目駆け下りると、雪の地面が抜け落ち、足全体が埋没する。前転した僕はひっくり返ることを余儀なくされ、あわや他のランナーと接触するところだった。なんとかコントロールを取り戻すと、前屈みになって危険を顧みない奔放さで下山する。数キロ、ほぼ標高差で1,000メートル降りると、僕は天場エリアに滑り込んだ。そこは「ランニング・アップ・フォー・エアー(Running Up For Air: 以下RUFA)」と呼ばれる無謀なイベントのスタート地点、救護ステーション、チェックポイント、そしてゴールとなる場所だ。

【 2017年のランニング・アップ・フォー・エアーのスタートラインに一斉につく参加者たち。このイベントで集まった資金は〈ブリーズ・ユタ〉に寄付される。イベント当日は、空気は驚くほど澄んでいたが、大気汚染が酷い日にマスクをかける人たちとの結束を示すために参加者はスタート地点でマスクを着用した。写真:Andrew Burr 】

わずか2年目に公式になったこのRUFAはかなり奇妙なレースだ。周回レースであることや、6時間、12時間、24時間に分かれているから変わっているという訳でもなく、山を登ったり降りたりするレースだから奇妙なのでもない。何が違うかというと、2月の極寒にユタ州のソルトレイク・シティを見下ろす山で開催されることだ。

このイベントの創始者であるジャレッド・キャンベルは数年前、とくにたちの悪い2月のある日にこのRUFAのアイデアを思いついた。それは嵐の日でもなければ、恐ろしく寒い日でもなく、ソルトレイクの大気汚染の「赤色警報」の日だった。ジャレッドは数か月後に催される大きなイベントのためのトレーニング中で、その準備として登り坂を走っていた。それ以前に何度もやったように、彼は酷く汚染した街の空気をあとにしてグランデュアー・ピークを駆け登った。頂上に立ち、大気汚染をきれいに見渡したとき、彼は何とかしようと決意した。

スモッグであふれた谷に戻ると、彼はすぐに〈ブリーズ・ユタ〉に連絡をした。〈ブリーズ・ユタ〉はソルトレイクの空気の質に関する問題に取り組んでいる地元の環境団体だ。ジャレッドはトレイルヘッドから5キロメートル弱、1,000メートル登ったところにあるグランデュアー・ピークを1周走るごとに、人びとに小額を献金してもらうというアイデアを売り込んだ。そして彼は24時間フルでそのピークを周回することを誓約した。このばかげた思いつきは成功した。何人かの友人がピークを何度も登り降りするジャレッドの支持を宣言し、〈ブリーズ・ユタ〉のために適度な寄付金を集めた。

1【 スモッグの日のソルトレイク・シティはこんな感じ。写真:Andrew Burr 】

2【 グランデュアー・ピークをせっせと周回するランナーたちを追跡するRUFAの創始者ジャレッド・キャンベル(左)。写真:Andrew Burr 】

チェックポイントを回り込むと、僕はジャレッドの視線を感じた。今年、彼はレースには参加せず、イベントの運営に全力を注いでいた。一緒に何週か走ったあと、機械のような目的とスピードで僕を置き去りにしていた過去数年間とは違い、今回僕は1人でスタートした。僕は彼に非常に高い目標を課されていたので、ぐずぐずしている時間はなかった。

3【 コースから外れて樹林のセクションを降りるルーク・ネルソン。写真:Andrew Burr 】

レース開始から何時間かが経過したころ、100人あまりのランナーが雪で敷き詰められたトレイルのいたるところに散らばっていた。僕は6時間部門に出場し、その間全力で走る計画だった。24時間部門の人たちは長丁場を持ちこたえられるようペースを配分していた。あらゆる種類のランナーたちが大義のもとにみずからの大腿四頭筋を犠牲にするために参加している。登っているあいだはランナーたちに蔓延する興奮に幾度となく驚かされた。数え切れないハイファイブ、「いいぞ!」や「行けー!」などの声援が、いまや踏み尽くされて凍ったグランデュアー・ピークのトレイルのあちこちで聞かれた。

4【 グランデュアー・ピークの頂上で感じられた良い大義のための良い雰囲気。写真:Andrew Burr 】

数時間後、僕は金切り声を上げながらチェックポイントにふたたび飛び込んだ。スキーのしすぎで走るのをおろそかにしていた大腿四頭筋は、グランデュアーを4往復するという虐待でぶるぶると震えていた。ランナーたちが入っては出て行く。ベースに集まった家族や友人は励ましたり、人なつっこい野次を飛ばしたりしていた。僕は暖かく乾いた服に着替えると、24時間の残りをボランティアとして働くために気持ちを切り替えた。

5【 頂上での笑いは次に控えている下山のあいだも興奮を持続させてくれる。写真:Andrew Burr 】

日が暮れるにつれて、コースに散在したランナーも減ってくる。午後10時にはその数は12の頑強な魂にまで減っていた。何人かはひとりで黙々と周回を重ね、ある人たちは3〜4人の小さなチームを組んで互いを助け合いながらレースをつづけていた。だが数は減ってもランナーたちのエネルギーは減らない。疲れ切った足、痛む筋肉、反抗する腹、水ぶくれのできた足、そのどれもが「もう1周」しに出て行く興奮を止めることはできなかった。

6【 暗闇のなかでスタートし、暗闇のなかでゴールすることは最も頑健な魂だけに与えられた特権だ。写真:Andrew Burr 】

7【 夜が更けるなか、暖かく過ごすルーク・ネルソンとタイ・ドレイニー。写真:Andrew Burr 】

午前4時近く、たったひとり残っていたランナーがチェックポイントに入ってきた。ついに終わりを認めた彼は、しょぼしょぼとした目のボランティアと、ブルーベリー・パンケーキとベーコンに暖かく迎え入れられた。合計周回数は400を軽く上回り、なんと標高差にして365キロメートル近くが登られた。たくさんの人が多忙な生活のなかから時間を捻出し、ソルトレイクの大気汚染の問題解決のための援助の手を差し伸べた。

2日後、寝不足の僕は同僚たちの冷笑のなか、事務所をよたよたうろつきながら「なんで自分はこんなことをやったんだろう……」と考えた。ちょうどなぜ登るのか、どうして走るのかと誰かに尋ねられたときに、その答えが易しくはないように。僕らは無益なものを征服するという目標を抱くとき、愛のために、もしくは「ただそこにあるから」そうする。でもこのイベントはどうなんだろうか。何かを改善するために僕たちは行動した。RUFAで集まった資金は意思決定者に働きかけるため、そして吸う空気を少しでも無害にするために何ができるかについて、人びとを教育するために使われる。

多くの場合、僕たちの生活に影響を与える決定を下すのは地元地域のリーダーたちで、〈ブリーズ・ユタ〉のような団体は地上軍だと言える。だからそういった団体は僕たちの援助や支持をいままで以上に必要としている。僕は金持ちでもなければ自由な時間がたくさんあるわけでもないが、この地球という惑星をより住みよく、より健康な場所にするために大腿四頭筋を寄付することは何にも勝る喜びだ。

 

ルーク・ネルソンの最悪の発想は、二本足による数々の世界探査へと自身を導いた。足指の爪を犠牲にしながらも地球のあちこちでレースと冒険を繰り返す彼は、夫であり、父であり、もうすぐ医師にもなる。アイダホ州ポカテロ在住。

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