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地理の勉強

by リサ・リチャードソン

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ある年のクリスマスに弟が『死ぬまでに見たい場所1000選』という本をくれた。私はこの手の本が大嫌いだ。弟と彼のガールフレンドはリストにチェックマークをつけるかのように、行ったことのある場所を得意げに並べたが、私は理解に苦しんだ。「で、そこでいったい何をしたわけ?」

目的地に着き、見物し、「済」印をつけて終わりという旅行。あとになって思い出すことさえない旅行。批判的なとげとげしい感情に包まれて、せっかくの休み気分が損なわれた。私にはすべて取るに足らない、空っぽの栄光に思えた。私にもリストがないわけではない。でもその「規定」のようなものがあるとほのめかすのは、幸せにたどり着くためのルートが GPS で検索可能であると約束する、巧妙な詐欺のように思える。

かつて誰かが「あいつは自分の領域すらわかっていない」とバカにするのを耳にしたことがある。その軽蔑的なひとことは妙に頭に引っかかり、自分は絶対にそんな風に言われたくないと思った。そして、本当にそうだ。そもそも自身の恐怖と向き合ったことすらないのに、携帯電話で自撮りして目的達成の証拠にしたり、縁もゆかりもない 100 人の後ろに並んで皆と同じことをしたりするのに、何の意味があるのだろう。

【 リア・エヴァンスが渡るのは、 シーズン末のリンゲン・アルプスで液体と 化した雪原。ノルウェー。全写真:Garrett Glove 】

私は世界の地理を知るよりも、少なくとも自分の領域を理解していたい。とは言うものの、家の窓から見える名前も知らない山や登ったことのない稜線の向こうにある、不思議な名前の、そしてさらに不思議な光りがあふれるどこかに憧れる自分もいる。あたかもこの町ではないどこかに、もっといい自分になれる場所があるかのように。

「皆、夢見る場所に住んでいるのに、夢を追ってあちこちに行くんだからおかしなものよね」とリア・エヴァンスは言う。

エヴァンスはブリティッシュ・コロンビア州レベルストークに住んでいて、最近ボロ家を買ったばかりだ。レベルストークは典型的なスキータウンで、世界中のスキーヤーとスノーボーダーはここ「レビー」にあこがれ、崇拝さえする。スキーヤーのメッカであり、錆びた小型トラックの荷台からはいつもスキー板が突き出しているような町だ。山々は大きく険しく野生のままで、バックカントリーの地形は無限につづき、ダウンタウンにはビールの匂いが漂う薄暗いパブの雰囲気を台無しにする高級ホテルもない。それでもエヴァンスは予想しがたい雪と、より困難なコンディションを求めて、定期的に町を離れる。一体なぜなのだろう。

「心底驚嘆するような瞬間がよく起こるのは、旅先でなの」とエヴァンスは言う。「まったく知らない地形では、すべてがオンサイトだから」

Lofoten【 クーロアールを求めて長い白線を描く ジャスミン・ケイトンとリア・エヴァンス。 ノルウェー、ロフォーテン諸島 】

地元の条件がどんなに良くても、そこにとどまると五感は鈍る。見慣れない地理や地形や気候に直面するため、エヴァンスと彼女のチームは信頼できるわずかな要素を支えに、五感を鋭く働かせながら未知の領域を進む。どこにいても彼らはスキーヤーであり、仲間であり、地球を愛する冒険家だ。二度と同じ場所には戻ってこないかもしれないし、つねにその土地に深く関わるとも限らない。でも、個々の内なる背景は変化する。慣れ親しんだ場所の実態はそこを離れるまで見えず、そして本当の自分というものも見えないのだ。

じつのところ、私たちはさまざまな場所を失う傾向にある。ひっそりとした川辺のキャンプ地が消え、ビーチへのアクセスは途切れ、スキータウンの住宅は高級マンションに変わり、サーフブレイクは破壊され、生まれ育った家は売却される。戻りたい場所の大半が、ときとともに失われる。座標のない場所、それは記憶を頼ってもたどることはできない。同じ川に二度入ることはできない。この世で唯一不変のものは、変化するということだけ。それでも自分の故郷だけは変わらない。故郷と呼べる場所を見つけた私たちは、少なくともそう望む。だから旅に出るときは、何らかの帰属感を持っていこうとする。私の場合はハーネス、マウンテンバイク、スキーブーツだ。これらがないと、異邦人か流れ者になった気分になる。新たな土地で自分が慣れ親しんだことをすると、そこに自分の位置を見定めることができるのだ。

「スキーをしながら旅をするのが大好き」とエヴァンスは言う。たとえ慣れない土地で、よそ者として動揺することがあっても、スキーヤーとしてその場所を体験する限り、その土地との関わり方は変わらない。

 

 

言うまでもなく、弟を批判するのは公平じゃない。私自身ガイドブックの端を折り曲げ、ルートの横に鉛筆で印をつけた場所がいくつもある。4 つ星級のマルチピッチを登るために並んだことも、新雪に覆われたボウルへとタビネズミのようにスキーヤーの行列に混ざって稜線をハイクアップしたことだってある。

私にとって肝心なのは「どこ」よりも「なぜ」だ。観光名所や人混み、リストやオススメは関係ない。汗をかいたり、努力したり、あるいはあきらめたりして報いを得るのが私のやり方だ。疑いながらもなんとか越えられたルートの核心部や、ホワイトウォーターまでの長いパドリング中に浮かんでくる思い出、薮をかき分けながらヘッドランプを頼りに夜通し歩きつづける道。そんな瞬間に私は自分を理解し、信頼できる何かを見つける。それは地元でも、旅先でも同じ。

もはや地図に載っていない場所や、衛星が焦点を合わせられない場所、赤外線画像が見通せない場所はない。私たちの心のなか以外には。そして心のなかこそが、夢と夢見る場所が一体となり、勇気ある者が真に輝く場所だ。弟はそれが言いたかったのだと思う。経験を重ねるごとに自分をよりよく知るようになる。方法にこだわる必要はない。規定もなければ、自分を知るための一本道もない。どこにいても地理の勉強はできる。

リサ・リチャードソンはブリティッシュ・コロンビア州ペンバートン を拠点とするライター。

このストーリーの初出はパタゴニアの2017年Mountainカタログです。

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