2015年~16年パタゴニア・シーズン「パタゴニア・ドール」賞
先シーズン、パタゴニアでは多くの歴史的登攀がなされたが、僕の「パタゴニア・ドール」賞は私心のない、そして永続する、ある非登攀に贈りたい。
その勢いは2014年後半、僕にe-mailをくれたクライマーのステファン・グレゴリーとともにはじまった。「僕は来シーズン、チャルテンに戻るつもりですが、お返しのために自分の時間をいくらか割きたいと思います。排泄物管理についての計画は何かありますか? 私は既存のプロジェクトを支援するために助成金申請の書類を作ることができます」
排泄物処理問題は長いあいだ公園サービス当局によって考慮されており、2007年当時のロス・グラシアレス国立公園北部の担当長カルロス・デュプレズは、排泄物管理の解決策を探る手助けについて僕に働きかけていた。このエリアはピット式トイレ(ポットン便所)に長らく依存していたが、処理をしないままでいることが不快感を与えていた。だが当時堆肥式、脱水式、貯槽式などの実行可能な解決策となる選択肢がなかった。しかし2010年、アメリカン・アルパイン・クラブ(AAC)がこの問題について会議を開催した。それは愛するアルパイン地帯において増幅していた問題であり、そのAACの会議からこの問題を広範に研究したカナダの工学博士、ジョフ・ヒルが出現した。ジョフは尿分離式の堆肥化(蠕虫/無脊椎動物)トイレで排泄物の量と病原体を非常に効果的に減少させるウィルダネス・ラトリン・トイレを考案した。それはシンプルかつ安価でメンテナンスの必要性も低く、安全に使用でき、汚水処理システムが建築不可能で廃物除去が容易でない寒冷な遠隔地域に理想的なデザインだ。私たちはこのプロジェクトを数年議論していたのだが、ステファンの興味と忠誠がこの努力の着火点となった。
このe-mailから14か月後、ステファン、レイチェル・マンガン、イーサン・ニューマンとアラン・トーン——順にガイド、環境科学者、消防士、著作家、建築者——がユタ州南部の故郷からアルゼンチンへと旅立った。そして4人のクライマーたちは、アチェソ・パンナムの助けを借りてプロジェクトの許可や資金調達の確保という事前事業を終えた。アチェソ・パンナムは中南米およびメキシコのためのクライミング支持組織であり、アメリカ合衆国におけるアクセス・ファンドのようなものではない。
チャルテンに到着後、ステファンと仲間はときおり国立公園社員のアリスティデス・アイテアの手を借りながら、仕事に着手した。いくつか可能性のあるトイレの設置場所の第一として、彼らは町からハイクで1時間の場所にある人気のラグナ・カプリがふさわしいと決めた。資材を運び、穴を掘り、構造物を建て、機械システムを組み立てるのにほぼ2か月を費やした。すべてが整うとジョフが飛んできて、ノウハウを与え、機会システムを最適化し、すべてを確実に作動させた。ラグナ・カプリはその自然の美だけでなく、パタゴニアにおける最も進化したウィルダネス・トイレを提供する。それは肥大していた問題への長期的解決策を提供する設備一式だ。
チームはアルゼンチンで過ごした77日のあいだ、55日間働いた。それぞれ120キロと7,300メートルの標高差をハイクし、1,360キロの資材を歩荷した。少なくとも1,000のエンパナダ、24個のドゥルセ・デ・レチェを食し、延べ2,500時間をボランンティアした。〈Acceso PanAm〉のキカ・ブランフォードとジョフ・ヒルの仕事を加えると、彼らがささげた時間はゆうに3,000時間を超える。
このプロジェクトは以下の皆さんの寛大な支援にて実現しました:〈Acceso PanAm(アチェソ・パンナム)〉、 パタゴニア環境助成金、ブラック・ダイアモンド・イクイップメント、アメリカン・アルパイン・クラブ、トイレット・テック・ソリューションズ、ディープ・クリーク・コーヒー・カンパニー、グレゴリー・ファミリー
というわけで、この貴重な資源を保護するため尽くしたステファン、レイチェル、イーサン、アランそしてジョフ・ヒルとキカ・ブラッドフォードに「パタゴニア・ドール」賞を贈る。王様にも十分に壮大な景観で、僕ら全員がこの黄金の王位に座ることを可能にしてくれた献身的な人びとと会社にお礼を言いたい。