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小さな種を未来へつなぐ

佐藤 博美  /  2015年11月30日  /  読み終えるまで7分  /  アクティビズム, コミュニティ

紅いずみ大根の種採り作業。房の中にゴマより少し小さい種が一列に並びます。よく乾燥させてから、カラカラの状態で、足踏みや手でこの小さな種を採りだします。写真:佐藤 博美

生命の多様性をもつ「固定種・在来種」が姿を消そうとしています。地球の未来に健全な生命を残すため、風土に合った郷土の種をふたたび生み出し、多くの方と共有して、未来の子供たちにつなげるために活動する――このミッション・ステートメントを胸に持続可能な農業を営む岩手県雫石町在住Cosmic Seed代表の田村和大さん。農業をはじめてから今年で丸5年、Cosmic Seedを立ち上げてからは4年になります。

田村さんが農業をはじめるきっかけとなったのは、毎日忙しく働き、過労で体だけではなく心も壊してしまった東京でのサラリーマン時代。そんな苦しいとき、いちばんの理解者であり、当時オーガニックの食材を扱う会社に勤めていた妻の佳世さんの支えにより体調が回復するにつれて味覚が戻ったとき、おいしいものを食べられる喜びから食の大切さを身に染みて実感したこと。それが大きな転機となりました。田村さんの実家は盛岡で農業を営んでいますが、野菜を作るために自分なりに栽培方法などを勉強し、2011年3月1日に実家のある岩手に戻りました。そしていざ農業をはじめようとした矢先の2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。このときすべての物流がストップ、注文していた農業資材や種も入荷してこない状況に。種の自家採種、そして自然栽培という農法が最良だと考えた理由はその経験にありました。さらには作るのも食べるのも、その土地で長く栽培されてきた固定種・在来種の方が理にかなう、そういった思いもあり、地元の野菜の種を扱う種屋から種を自家採種してもよいという了解を得て購入し、固定種・在来種の栽培を開始しました。

作物は全て種からはじまって成長し、やがて収穫時期を迎えます。そしてまた次の年に向けて種を採取する。その繰り返しを経て、田村さんは種を絶やさない自家採種の農業を営んでいます。しかしながらその種を自家採種する光景がいまは少なくなっていると田村さんは言います。同時に固定種・在来種の作物がいまや私たちの食卓では姿を消し、購入できる所も少なく、よく知らないという方も多いと思います。固定種とは、親から子へ、子から孫へと代々受け継がれながら種を取り、また育てていくなかで自然とその作物の個性が定着し、固定していったもの。そして在来種とは、固定種のひとつで、自然な育種をしているうちにその土地その風土に合わせて適応していった作物のこと。昔からその土地、その地域で生産者自身が自家採種などにより栽培、保存し、その土地と風土にあった作物のことをいいます。昔の野菜や伝統野菜とも言われていて、その作物自体がもつ味、特徴、個性がしっかりしているのが固定種・在来種の作物に多いようです。どちらの種にも共通することは、科学の力を使わない、自然のままの状態の種であり、昔ながらの種であるということです。また、大量生産には不向きで、形も不ぞろいなため、各地で人知れず消えてしまった品種も多いようです。

一方で、耳にしたことのある方もいると思いますが、急速に普及が進んでいるのがF1種。異品種を掛け合わせて作ったミックスで、Filial 1 hybridの頭文字を取ってF1種またはハイブリッドシードとも呼ばれている人為的に作られた一代限りの種です。この品種改良の技術が向上したことで野菜の味にクセが少なく食べやすくなり、野菜嫌いの改善にもひと役買っていることはたしかだと思います。また作物の生育の速さや大きさや形もよく、収穫量も安定するため、出荷が容易になる利点もあげられます。販売者としては、日持ちがして売れやすく、安い野菜を仕入れたい。それらの要求から、生産者が栽培しやすい、虫がつきにくい、形が良く出荷しやすい、成長が早い、収穫量が安定しているなどの農法を選ぶことを否定することはできません。しかし消費者が求めるニーズとは、安く購入できることだけでしょうか。

Cosmic Seedでは種を自家採種し、農薬、肥料を施さない自然栽培をしています。この自然栽培とは、手間ひまがかかり、形も不ぞろいのものが多くなりますが、自然環境のことを考えた農法です。安心・安全な食べ物を作るためには、地球の環境に負担をかけず自然のままの土壌をいかして種をまき、育て、収穫時期を待つ。とてもシンプルな方法ですが、種まき、苗の定植、草むしり、間引き、収穫、種取りなどには手作業が必要で、手間がかかる農法でもあります。しかし、それだけに作物に対して愛着が強くなり、食に対して責任をもつといえます。何も加えない土でも、ていねいに耕すだけで土の中にいるミミズや小さな虫、微生物たちが土を良くしてくれます。また使用する機会も必要最低限にして、体に負担をかけないように作業することも、農業をする上では必要不可欠です。

自然栽培の作物は、農薬や肥料で安定した生産量が多い作物に比べると価格がやや高めになりますが、自然栽培の農作物に多くの消費者が目を向けるようになって需要が増えると、より多くの農家さんも自然栽培に切り替えていくようになり、そうすれば作物の価格が抑えられ、どこの家庭でも気軽に購入できる世の中になるでしょう。自然栽培を行うことは自然環境を守るだけではなく、持続可能な農業を築いていくためには不可欠といえます。田村さんが農業をはじめたばかりのころは、一人でほぼすべての作業をこなし、試行錯誤しながらいまにつながっていると話していました。それは失敗も含め、一人でどこまでできるのかを知るためには必要なことだったと、以前を振りかえりながら本当に大変だったと話してくれたのが印象的でした。

パタゴニアの環境インターンシップ制度を利用し、毎月短い期間でしたがCosmic Seedのスタッフの一員として一連の作業を手伝い農業を学ぶことができ、また田畑から見える岩手山などの山々に囲まれた環境と空気も心地よく、毎回岩手に行って作物たちの成長を実感しつつ作業するのが楽しみでした。順調に育ってきた作物が台風や豪雨などの自然災害によって一瞬でだめになることもあるでしょう。しかし農業とは、天候や気温などの自然相手の仕事として向き合っていくことが大切です。私は今後も、安心・安全な作物を作りつづけ、農薬に頼らない農業が当たり前の未来になること、そしてその土地で生まれた作物が途絶えることのないよう種を守り、次の世代へと引き継がれていく自家採種の大切さを伝えていく活動を応援していきます。

小さな種を未来へつなぐ

岩手大納言の収穫。岩手県久慈市の在来種の小豆。小豆はくきが太く、鎌を使って収穫しますが、中腰の姿勢なので腰に負担がかかるのと、体力も使います。収穫した小豆は出荷用と種用に分けます。写真:佐藤 博美

小さな種を未来へつなぐ

南部長なすの在来種。ジーンバンクより取得して自家採種1年目の、県内では手に入らない貴重な種。なすの身に種があるため、写真のように水のなかで種採りを行い、水切りして乾燥させます。写真:佐藤 博美

小さな種を未来へつなぐ

盛岡ねぎの在来種。種採りをし、今年8月に種蒔き。現在はハウスのなかで育て、来年6月にまた自家採種して種を増やしていきます。希少な在来種を絶やさないよう育種していきます。写真:佐藤 博美

小さな種を未来へつなぐ

岩手亀の尾の在来種。秋田県で育種された米の品種で、今年から試験栽培しています。ややむずかしい品種らしいですが、しっかり育ってくれました。写真:佐藤 博美

小さな種を未来へつなぐ

ズッキーニ。田村さんの野菜といえばズッキーニ。夏野菜のひとつで人気が高い作物です。写真:佐藤 博美

小さな種を未来へつなぐ

稲のはせがけ。稲刈り後に田んぼの真んなかに杭をたて、稲をかけて天日干しさせます。こうやって自然の力で乾燥させたお米は機械で乾燥させたものより断然おいしい。写真:守田 裕子

小さな種を未来へつなぐ

インターン最終日。田村さん(中央)、田村さんの友人であり一緒に働く仲間の小志戸前さん(右) 写真:田村 和大

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