バーティカル・セーリング・グリーンランド2014:パート2「悪天候、船上コンサート、夜間の登攀」
バフィン島に着いてから3週間が過ぎた。(編集者注:パート1はこちらをご覧ください。)最初に出会った地元住民は海岸から何キロメートルもはなれた叢氷の上を漂流している8頭のホッキョクグマだった。深い霧のなかで砕けた叢氷の合間を縫うように走っているときのことだったので、かなり驚いた。
クライド・リバーに立ち寄ってカナダへの入国手続きを終えたあと、サム・フォード・フィヨルドのビッグウォールに向かって出帆した。そしてすぐに巨大な岩壁の多さと、ここがほぼ手つかずの状態であることに驚愕した。ものすごくワイルドで、美しく、力強い。そしてそれとは対照的に僕たちは小さく、弱々しく感じる。
毎日のジャムセッションにもかかわらず天候はあまり協力的でなく、なんとこの3週間で24時間以上好天がつづいたことがいまだにない。クライミングには出かけたが、吹雪と強風をともなう脆い岩での過酷な冒険となった。期待したコンディションではなかったが、嵐は明らかにこの体験を盛り上げた。
サム・フォード・フィヨルドに着いてから1週間後、はじめて別の帆船の訪問を受けた。しばらくクライミングができない天気がつづいていたので、僕たちはひたすらジャムセッションをしていた。ノヴァロ号はずっと大きなボートだったので、彼らは親切にも僕たちをディナーに招いてくれた。自分たちがどんな状況に足を踏み入れることになるのかを知ることもなく……。僕たちはデザート代わりに楽器を持ち込み、ワインをどんどん飲みながらジャムセッションをつづけた。ついに何時間もの練習の成果を披露できた熱狂的な夜だった。コンサートが終わると空が晴れてきた。そこで僕たちは午後10時からクライミングに行くという衝動的かつあまり賢明とは言えない決断を下した。
僕たちはエネルギーに満ちあふれていた。オリと僕は1,000メートルの岩柱に取り掛かり、ベンとショーンはフィヨルドの反対側の低め(600メートル)ながら傾斜のきつい岩を選んだ。真夜中になってとんでもないことをやっていると気付いたが、その夜の前向きな雰囲気に乗りつづけた。空模様は徐々に悪化し、正午までには吹雪のなかを登ることになった。ベンとショーンは運良く最終ピッチを登っていてクリスマスを思わせる雪片を楽しんでいたが、オリと僕はまだまだ先が長かった。20ピッチ目を終えるとレッジには雪が積もり、僕らは引き返して天候が回復したらやり直そうと考えた。結局その選択は正解だった。
旅のあいだに600メートルから1,000メートルのすばらしいルート4本をノンストップで開拓した。36時間を要したルートもあった。天候や岩質のせいで敗退したこともあったが、それは成功時の喜びをさらに増大させた。
ある登攀のあと、ショーンとベンは5日間立ち往生することになった。海が大荒れで迎えのボートを出せなかったのだ。釣りがうまくいかず、2人はサバイバル術を実践するしかなかった。夜はホッキョクグマの攻撃に備え、発炎筒を焚いて寝た。
ボートでは風から保護された適切な投錨地を見つけるのに苦労した。フィヨルドは非常に深く、風向きは始終変わったからだ。1本の策と3つの錨を使って安全対策をとったことも数回あり、夜は錨のシステムに不具合があった場合に備えて見張り番を置かなければならなかった。
今日は完璧な青空の下、ギブス・フィヨルドのビッグウォールを目指して北に帆走している。バフィン島に到着して以来最高の天気だ。これが少しつづいてくれるといいのだが。気温は着実に下がり、日照時間はどんどん短くなって冬がゆっくりと戻ってくるのを感じる。北壁はすでに新雪で覆われている。でも僕らはもっともっと登りたい…。さぁどうなるかはお楽しみ。
海より、 ニコ、ショーン、オリ、ベン
(パート3につづく)