容認できない労働コスト:サプライチェーンをより深く掘り下げることが、新しい外国人労働者雇用水準にどのようにつながったのか
職を得るために7,000ドル支払うことを想像してみてください。それは労働者を必要とする台湾の多くの工場の職を紹介するために、就職斡旋業者がアジアの外国人労働者に請求する手数料です。斡旋業者は通常、法的制限を超えた手数料を請求しますが、この慣行はビジネスを営むうえで容認可能であると考えられています。手数料には輸送費、就労ビザなどの必須項目が含まれていますが、工場での仕事を得るためにそのような手数料を支払うことは、すでに生計を立てるのに苦心している労働者にとってはほとんど不可能な重荷です。
辛辣に言えば、それは現代の奴隷制度ともいえる年季強制労働のひとつの形態を作っています。そしてこれは私たちのサプライチェーンで起こっていることです。
パタゴニアは就職斡旋業者に依存する台湾の工場から繊維やその他の素材を購入しています。
1月、私たちはホワイトハウスから、国務長官ジョン・ケリーが指揮する「サプライチェーンにおける人身売買と戦うためのホワイトハウスのフォーラム」にてパタゴニアの仕事を発表するためにCOOダグ・フリーマンとソーシャル/エンバイロメンタル・レスポンシビリティ部門のディレクターのキャラ・チャコン(写真上)を招待する電話を受けました。ウォールマート、ヒューレット・パッカード、SAPクラウドとともに、パタゴニアはこの問題についての私たちの仕事とベストプラクティスについて討論することを依頼されました。
「私たちの計画と前進についてシェアするチャンスを貰えたのは名誉なことでした」とキャラは語ります。「私たちの仕事は困難ですが、不可能ではありません。労働者のために、他の会社もこの問題を認識し、彼らの努力を推進してもらうことを私たしは期待しています」
「パタゴニアの外国人労働者雇用水準および履行ガイド(英語)」をダウンロード
サプライチェーンにおける外国人労働者の搾取を阻止するためのパタゴニアの取り組みのタイムライン
2011年1月:パタゴニアは「原材料サプライヤーのソーシャル・レスポンシビリティ・プログラム」をローンチするための準備を開始。これには原材料サプライヤー(繊維工場、スナップとジッパー製造業者など)の第2段階サプライチェーンおよびその下請メーカーのマッピング、このプログラムの発表のためのコミュニケーション計画の開発、および素材開発およびデザインチームのための社内トレーニングの提供を含む。
2011年8月:原材料サプライヤーのソーシャル/エンバイロメンタル・レスポンシビリティ(SER)プログラムを発表するため、パタゴニアはソルトレイク・シティで開催されたアウトドア・リテーラー・ショーにて原材料サプライヤーのためのセミナーを実施。これ以前、パタゴニアは監視努力のほとんどを最終製品(組み立て)工場とその下請工場に当てていた(第1段階)。
2011年9月:パタゴニアは社会監査のテンプレートを見直し、人身売買の可能性を検出しやすくできるようにするために外国人労働者のセクションを改訂することを決定。第3者のコーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(CSR)専門家が新たな外国人労働者セクションを開発し、人身売買にフォーカスする非営利団体数社がこれを厳しく吟味。これ以降のすべての社会監査は外国人労働者セクションを含む改訂済みの監査ツールを使用する。
2011年10月:来る社会的責任監査のためにサプライヤーに準備をさせる。ブランドがこのレベルのサプライチェーンを監査することは稀なため、これらの監査はパタゴニアの第2段階サプライヤーのほとんどにとっては新しいもの。パタゴニアが選んだ経験豊かな第三者の監査機関がサプライヤーとの監査の打ち合わせを開始する。
2011年11月:新しいカリフォルニア州法(カリフォルニアSB 657)に従い、パタゴニアは「サプライチェーンの透明性に関するカリフォルニア州法」の開示をウェブサイトに公表。これはサプライチェーンにおいて人身売買と児童労働を防ぐためにパタゴニアが取る詳細措置の大要。
2011年12月:サプライチェーンと関与するすべてのパタゴニア社員に対し、人身売買の認識のための訓練を実施。
2012年1月〜9月:この期間、パタゴニアは世界中の原材料サプライヤーを監査。台湾での監査はサプライヤーの7社が外国人労働者を雇用し、いくつかの粗悪な雇用慣行が明らかになった。パタゴニアは即座にこれらのサプライヤー全社に外国人労働者問題を修正するための改善行動計画に着手するよう要請。パタゴニアのSERスタッフはサプライヤーにフォローアップしたが、外国人労働者問題は台湾においては系統的なものであり、これを撲滅するためには集中した包括的アプローチが必要であることを即座に認識する。
パタゴニアのSERチームは台湾で見つかった問題のための短期、中期、長期の人身売買修正戦略を作成し、パタゴニアの経営陣に提出する。パタゴニアの段階的な戦略:リサーチとローンチ、修正、システム全体への拡張。パタゴニアのビジョン:パタゴニアのサプライチェーンの労働者のみならず、同じ状況下にある台湾の労働者すべてを支援し、この試みに他のブランドを巻き込むための影響を及ぼすこと。
第一段階:リサーチとローンチ
・同じ問題に取り組むブランドを招集
・外国人労働者水準の開発
・サプライヤーの教育
・パタゴニアの幹部が参加する直接セミナーを通して台湾のパタゴニアのサプライヤーにてプログラムをローンチ
・外国人労働者にフォーカスした詳細監査の完了
第二段階:修正
・トレーニングとカウンセリングを提供してサプライヤーを支援
・持続可能な修正を最大化/加速化するためにプログラムをチェック/調整する
・進行状況の監視と報告
・政府機関とミーティングを持ち、彼らの知識、トレーニングと支援サービスを活用する
第三段階:システム全体への拡張
・サプライチェーン全体にて水準をローンチ
・水準とその経過を公表
・興味を持つブランドを招集
・台湾におけるすべての外国人労働者へプログラムを拡張するため、業界パートナーシップの構築の継続
2012年10月〜2013年2月:台湾の原材料サプライヤーにおける強制労働/人身売買のトレンドについてパタゴニアのCEO、COO、副社長に報告。彼らはこの問題解決のためにスタッフと外部のコンサルタントの増強が必要であることを認識。外国人労働者プログラムの開発のために2人の専門家(1人はベンチュラ本社、もう1人は台湾を拠点とする)が必要であることを識別する。直ちにベンチュラを拠点とするCSR専門家雇用のための長いサーチに着手。
2013年1月:人身売買と奴隷労働に言及したサプライヤー行動規範の改訂版をローンチ。パタゴニアの旧バージョンはすでに強制労働禁止を含んでいたが、新バージョンには人身売買と奴隷労働が足される。
2013年3月〜5月:外国人労働者プログラムの陣頭指揮を取るCSRの専門家を雇いベンチュラに赴任。2013年の5月末より彼女が仕事に就く。
2013年5月:パタゴニアのSERチームはパタゴニアのデザイナーとマーチャンダイザーに対し、サプライチェーンにおける人身売買およびサプライヤー管理のための「4重のアプローチ」のトレーニングを提供。これはSERチームが非遵守のサプライヤーを解雇する権限を含む。
2013年6月〜10月:パタゴニアが新たに雇用したSERマネージャーが短期、中期、長期戦略の履行に着手。台湾を拠点とする現地マネージャーのサーチを開始し、異なるビジネスセクターのブランドを招集してサプライチェーンにおける強制労働/人身売買の問題について対話をはじめる。パタゴニアは台湾を含む世界中の鍵となる原材料サプライヤーのソーシャル監査を継続。
2013年11月:広範囲におよぶサーチののち、台湾を拠点とするCSR現地マネージャーを雇用。
またサンフランシスコにて40のブランドを招き、サプライチェーンにおける人身売買についての1日フォーラムを開催。7社が出席する。残りの多くも興味はあるものの、この問題に挑む準備ができていないと話す。
2014年1月:戦略の一部として、パタゴニアは台湾の繊維工場における外国人労働者の待遇について深く掘り下げはじめる。求人から帰還まで外国人労働者のライフサイクルの全側面を学ぶため、それぞれのサプライヤーの工場における外国人労働者に焦点を当てた4件の査定を委託した。これらの査定には求人手数料、差別、住居、賃金、契約などを含む。提案依頼書を作り、専門機関を調査したのち、企業がサプライチェーンにおける人身売買へ対処するための支援を専門とする2つの組織と仕事を開始。両社に対して台湾における外国人労働者と就職斡旋業者との面接を含む2件の外国人労働者査定の実施を要請。
2014年2月〜4月:パタゴニアは4件の外国人労働者の査定を委託し、結果を受け取る(チャイニーズ・ニューイヤーでスケジュールが遅延)。パタゴニアは最終の査定工程の参考にするため、このチャンスを活用してデータ収集のための異なるプロトコルと方法を試す。監査結果は台湾の原材料サプライヤーにおける外国人労働者の非遵守の程度の深さと酷さを明らかにし、パタゴニアはこの問題に対処するための忠誠をさらに強める。
2014年6月〜7月:パタゴニアは非営利団体〈Verité〉とパートナーシップを組むことを決め、詳細戦略を開発するための最善の方法について対話を開始。鍵となるアクティビティとマイルストーンを見極め、最初のステップを計画する。
2014年8月〜11月:〈Verité〉と共同で包括的な「外国人労働者雇用水準と履行ガイド」を開発する。またパタゴニアの新しい水準を発表し、人身売買の非遵守を修正することをサプライヤーに依頼するため、台湾におけるサプライヤー・サミットの準備も開始。
2014年12月:パタゴニアは「外国人労働者雇用水準」を最終化し、この40ページ以上の書類を中国語に翻訳し、直接そしてe-mailにて台湾のサプライヤーに提示する。パタゴニアは2つの締切を設定:(1) 2015年6月以降、いかなる労働者も斡旋業者に手数料を支払わない(原材料サプライヤーは政府から直接雇用するか、自ら斡旋業者に手数料を払う)、(2) 2015年6月1日以前に雇用されたすべての労働者が支払った、法的制限を超えた斡旋手数料を2015年12月31日までに返金する。
パタゴニアが招待した原材料サプライヤー全社およびパタゴニアのCOO、サプライチェーン担当副社長と素材およびソーシャル/エンバイロメンタル・レスポンシビリティ部門のディレクターが台湾でのミーティングに出席する。
同出張時、パタゴニアのSERチームは台湾の労働省の官僚とミーティングをもつ。外国人労働者が直面するチャレンジについて討議し、ベストプラクティスをシェアし、コラボレーションのできる分野を識別。労働省の官僚は労働者が支払う斡旋手数料を排除するひとつの方法である外国人労働者の直接雇用のためのトレーニングをパタゴニアのサプライヤーに提供することに同意する。
2015年1月〜進行中:パタゴニアのSERマネージャーと現地マネージャーは台湾の原材料サプライヤーと密に協力して新水準の履行と締切遵守のための支援を継続。
ホワイトハウスの招待により、パタゴニアのCOOおよびSERディレクターがワシントンD.C.へと旅し、「サプライチェーンにおける人身売買と戦うためのホワイトハウスのフォーラム」に参加する。パタゴニアのSERディレ
クターはまた、パタゴニアの仕事を発表するためにパネル討論会にも参加。
2015年2月:台湾の労働省が外国人労働者の直接雇用について原材料サプライヤーにトレーニングを提供。
2015年3月:パタゴニアが台湾以外の裁断および縫製工場と原材料サプライチェーンすべてに対して「外国人労働者雇用水準」を発表。
2015年3月〜進行中:パタゴニアは自社費用で、台湾のサプライヤーに対する外国人労働者に焦点を当てた監査を継続して〈Verité〉に委託。
2015年4月:国際労働機関(ILO)は現代の奴隷労働についてのシンポジアム「Out of the Shadows」の討論会で発言するよう、パタゴニアのSERディレクターを招待。
2015年6月:一般の閲覧と使用のため、パタゴニアは「外国人労働者雇用水準」をウェブサイトで公開。