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アルバトロス・アドベンチャー

加藤 ゆかり  /  2015年1月8日  /  読み終えるまで7分  /  アクティビズム

写真:山階鳥類研究所

アルバトロス・アドベンチャー

長くて白い翼を力強く広げるアルバトロス 写真:山階鳥類研究所

その羽は白くて柔らかそうで、でもその翼はとてつもなく長くて、そして力強かった。私の見た、野生のアホウドリの最初の印象だ。

私は2014年11月、日本の小笠原諸島の小さな島、聟島(むこじま)に再び降り立った。パタゴニアのインターンシップ・プログラムを利用して絶滅危惧種のアホウドリのモニタリング調査をするためだ。朝から夕方までのタイムシフト制で、交代で繁殖地から浜を隔てて300メートルほど離れた観察サイトから行動を15分おきに記録し、特徴的な行動が見られたときは望遠レンズの付いたカメラで撮影する。

親鳥がわが子を羽毛の下に包み込んでやる。寒さや風や外敵からわが子を守る。昔のヒトはこれを「羽ぐくむ」と呼んだ。それは給餌とともに、親鳥がひなを育てるうえで欠くことができないこと。私はアホウドリが健気に卵を抱くようすを、何時間でも見ていることができた。

アルバトロス・アドベンチャー

写真:山階鳥類研究所

アルバトロス・アドベンチャー

観察サイトから繁殖サイトを観察する。写真:山階鳥類研究所

ところで、これから話を始めるのだが、その前に心にひっかかって仕方ないことがある。「アホウドリ」という名が、この素晴らしい鳥にまったくふさわしくないということだ。ここからは国際的に通じる生物名「アルバトロス(Albatross)」という名前を使って話を進めたい。

アルバトロス。この鳥は生きているうちの大半を海洋の上で過ごす。そして秋から春にかけて、日本のメインランドから南へ遠く離れた小さな島に舞い降りる。するとそこで羽を休める間もなく、まるで映画の撮影がスタートしたかのように一斉に恋をしはじめる。小さな島のあちこちでオスとメスが歌を歌い合い、ダンスを踊る。オーディションを終え、晴れて主演俳優のペアが決まると、大きな白い卵をひとつだけ産み、オスとメスが交代で卵を羽ぐくんでいく。しかもアルバトロスは生涯、よほどのことがないかぎり、同じ相手と添い遂げる。すべてを決めているのは彼らのカラダに組み込まれたDNAだ。その時期が来るとホルモンバランスが波打ち、去年恋したパートナーに会いにいきたくなってしまう。北半球の秋風が彼らの気持ちを高ぶらせ、そこで感動の再会を果たすのだ。

アルバトロス・アドベンチャー

求愛ダンスをするアルバトロス。写真:山階鳥類研究所

小笠原諸島付近にも、10月の終わりごろから一羽、また一羽とアルバトロスが飛来する。今年は時期外れの台風が来たため予定よりも1週間以上遅れたが、私たちモニタリングチームも無事に調査地の聟島にたどり着いた。荷物をさっさと降ろして、観察サイトへ向かう。繁殖地へはみだりに侵入してはいけない。観察サイトからまるで探偵かのように双眼鏡を覗き込んだ。すると……アルバトロスのデコイ(鳥のマネキン)のなかに、微細に動く本物の個体がいるではないか。伊豆鳥島から移送され、聟島で人工飼育された足輪No.Y01の「イチロー」だ。彼はすでにお腹に卵を抱いているようだ。お相手は野生個体の「ユキ」。今ここにはいない。オス・メス交代で抱卵するため、彼女は腹ごしらえに外洋に出ているようだ。イチローは満足げな顔をして抱卵しているように見える。今回は、残念ながら交尾行動を観察することはできなかったが、無事に卵が生まれている可能性は私たちに安堵感を与えてくれた。

大海の上をモバイルもGPSももたずに待ち合わせできる彼らを見ていると、まさに自然の神秘と言いたくなる。アルバトロスのペアは、再会する時期が少しでもずれると子孫繁栄が失敗に終わる。つまり繁殖地にメスの到着が早過ぎたり、オスの到着が遅すぎたりすると交尾のタイミングがずれてしまうのだ。ずれてしまうとメスの卵巣では卵の発達が先に進み、卵の殻が形成されてしまって、後から交尾をしても未受精卵となってしまう。そもそもなぜこんなにもこのペアを大事に扱い、行動観察をしたり、人工飼育をしなければならなかったかと言うと、まぎれもなくアルバトロスが絶滅寸前にあったためだ。私がこの活動をつづけ、支援する非常に重要な理由はここにある。

その昔、日本の周辺にはおびただしい数のアルバトロスがいた。1888年(明治21年)に羽毛輸出が国事として重要視される時代になり、ある男が雇用人を連れて伊豆諸島の「鳥島」へ向かった。上陸すると、人間を恐れることを知らないアルバトロスは長い首を伸ばし、群をなして寄ってきた。雇用人たちはすかさず、こん棒で打ちのめした。急所の首筋にうまく当たると一撃で死んだ。だから数人で追い込んで囲めば、彼らはオロオロと往生するしかなかった。そんな姿を見た当時の日本人が、「この鳥は、鳥なのに飛べない阿呆な鳥だ」と笑い、「アホウドリ」という汚名をつけたのだ。こうして一行は5年間で500万羽ものアルバトロスを捕獲した。1906年に減少したアルバトロスが保護鳥に指定され、捕獲が禁止になってもまだ、私たちは深刻な事態から目を覚ますことはなかった。そしてついに絶滅の危機に瀕してしまったのだ。

12月、島から戻った私は、寒波に襲われる東京の空に白い息を吐いた。ひと月前に日焼けしたのがすっかり元通りになった肌の上にダウンジャケットを着ている。しんしんと寒い夜は羽毛布団にくるまり、目を閉じてアルバトロスが滑空する姿を思い出している。ダウンに包まれて自分の身体がちっとも寒くないことを全身で喜ぶなか、改めて数多くの生き物からたくさんの恩恵を受けて、自分が現在に生きていられることを私は実感した。普通の暮らしに戻り、モノが溢れて麻痺しそうな消費社会にいる私と、いつだって過酷な環境で、何ももたずに強く生きている野生動物。意識せずにいると自分に何かが不足していると探してしまう私たち人間の姿は、自然界の中でとても罪深い存在のように思えた。

私はいまここで改めて、インターンシップという貴重な機会とアルバトロスという素晴らしい生き物の保護活動に参加できたことに感謝の気持ちを表したい。なぜならば、絶滅していたかもしれないアルバトロスと、この地球で同時代に生きられる奇跡を確認できたからだ。大きな翼を広げて、空と海のあいだを自由に飛んでゆく彼らの姿が目に焼き付いて離れない。そして、私は現在もパタゴニアでスタッフとして働いている。ダウンジャケットを着て、これを売ることを生業としている。店に立ち、ダウンを手に取るお客様にアルバトロスの話をすること。これは私ができる彼らへの恩返しと、最大の使命なのだ。私は失ったものを取り戻すにはそれ以上の労力を必要とすること、改善できる問題は自分が生きる時間のなかで解決に向けて行動し、そして信念を貫いて、地球の仲間を守りつづけることを誓う。

アルバトロス・アドベンチャー

観察サイトに向かう途中の丘でオカリナを吹く。写真:山階鳥類研究所

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