FROM SEED to suit:種からスーツへ
アリゾナの農地からいちばん近くのサーフポイントへはかなりの距離があります。このアメリカ屈指の乾燥地帯でパタゴニアの最も重要なサーフ製品イニシアティブのインスピレーションを得るとは、想像さえしていませんでした。しかし新境地を目 指すとき、意外な場所に足を運ぶのも一案であることがわかりました。
パタゴニアが2006年にウェットスーツの製造をはじめたとき、私たちの目標はシンプルでした。それは環境への影響を最小限に抑えながら、できるかぎり最高のウェットスーツを作る、ということです。ウェットスーツは純粋に人力だけで海に接することを可能にさせてくれるものですが、従来のウェットスーツ素材には改善の余地が多分に残されています。その環境上最大のマイナス面は、極めて有毒な工程で製造される石油ベースの化繊素材、ネオプレンです。パタゴニアの初代のウェットスーツの製造では、メリノウールの裏地を施すことによりネオプレンの使用量を減らせることがわかりましたが、私たちは環境への負担がより少ない解決策を望みつづけました。
数年にわたって代替品を模索したのち、植物ベースのバイオラバーを製造するアメリカ企業のユーレックス社と協力をはじめました。その結果、アメリカ南西部の砂漠を原産地とする灌木グアユールを使用し、生分解可能で従来のネオプレンに勝るとも劣らない新しいウェットスーツ素材の共同開発に成功しました。グアユールは無農薬で栽培され、収穫および根覆い後に、水性分離プロセスで高品質の天然ゴムが抽出されます。ゴムは薄いシートに加工され、ウェットスーツのパネルとして裁断されます。ザ・フォージの製品エンジニアはプロトタイプのスーツを、まずはパタゴニアのアンバサダーとフィールドテスターたちに渡しました。世界中でサーフィンしながらユーレックス素材を試した彼らは非常に優れた伸縮性と保温性を実感し、私たちは期待以上の結果が得られたことを確信しました。
そして2013年秋、パタゴニアのウェットスーツ製品のなかで最も人気のR2フロントジップにはじめてユーレックス・バイオラバーを60%、従来のネオプレン40%とのブレンドで導入しました。2014年秋には、R2とR3フロントジップのスタイルを含むユーレックス製ウェットスーツのコレクションを拡大する予定です。さらにこれらのスーツにネクスキン製スムーススキンを加えることにより、その耐久性に非常に優れた防風性コーティングがパフォーマンスをレベルアップさせるという利点も備わりました。私たちはこれらのスーツを初のユーレックス・バイオラバー100%で実現することを目指し、現在フィールドテストを実施中です。
ユーレックス・バイオラバー製ウェットスーツは、パフォーマンスや寿命に妥協することなく従来のウェットスーツと同じように使うことができ、しかも環境への影響は多大に改善できます。化学薬品を使用しない栽培という初めから、生分解可能という終わりまで、総合点においてより優れているのです。
しかしこれはほんのはじまりに過ぎません。パタゴニア独自のユーレックス・バイオラバー・プログラムはごく小さなステップであり、大々的な変化を生み出すためにはこの素材が業界全体で共有されなければなりません。パタゴニアはサーフィン界では小規模企業であり、入手可能なユーレックス素材の使用量が少なければ、従来のネオプレンのウェットスーツよりも高価にせざるを得ません。そこで私たちは他のウェットスーツ製造企業とユーレックスを結びつけるという飛躍的な決断をしました。2015年には、パタゴニア専売のバイオラバーが他企業でも使用可能になります。この決断を疑問視する人もいるでしょう。けれども需要が増えれば、価格が下がり、それにより多くのサーファーが環境への影響が少ない製品を購入できるようになれば、最終的には私たち皆が成功するのです。
パタゴニアではウェットスーツ全製品にユーレックス・バイオラバーを導入する方法は未だ考察中ですが、とりあえず現段階では種からスーツへゆっくりと、けれども確実に前進していることに胸を躍らせています。
パタゴニアのユーレックス製ウェットスーツの技術と革新に関する詳細は:patagonia.com/japan/yulex