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3度目のパタゴニアで学んだこと

横山 勝丘  /  2014年3月14日  /  読み終えるまで9分  /  クライミング

左から:ジャンボ(横山勝丘)、マス(増本亮)、ユースケ(佐藤裕介)。パタゴニア 写真:横山 勝丘

3度目のパタゴニアで学んだこと

左から:ジャンボ(横山勝丘)、マス(増本亮)、ユースケ(佐藤裕介)。パタゴニア 写真:横山 勝丘

パタゴニアに来てからの2か月間で一度も目にしたことがないほどの透き通った青空が広がっている。その空に向かって延びる一本のクラック。リードするマスのハーネスから垂れたバックロープが、この壁の傾斜の強さを物語っている。見た目の美しさとは裏腹に、クラックの内側は粗い結晶に覆われている。そのクラックに手をねじ込み、上を目指す。手を保護するために巻いたテープの上から、結晶が食い込んでくる。手の甲にはあっという間に穴があき、血が滲む。そんな状況にもかかわらず、ぼくたちの口元はゆるみっぱなし。傾斜の強い壁には、一瞬でも休めそうなだけのスタンスさえも見当たらない。リードした仲間が作ったビレイポイントまでたどり着いても、そこは野郎3人がモゾモゾとうごめくのがやっとで、体を休めるなんてもってのほかだ。それなのに、もう目は次のピッチに向けられている。

「なんだ、またお前がリードか。面白そうだな、ちょっとオレに代われ」「いやいや、ジャンボ先生は最終兵器ですから」 そうやって、結局ぼくにはおいしいピッチはまわってこない。いつものパターンだ。まわりを見渡せば、名もなきピークに突き上げる一本のクラックが目に入る。そこを登る自分を想像した瞬間、この場所への再訪が決定的となる。そうやって、これまでいくつもの遠征をこなしてきた。

3度目のパタゴニアで学んだこと

ティト・カラスコ西壁「Atari」3ピッチ目(5.12a)を登る増本亮。写真:横山 勝丘

その数時間後、ぼくたちは頭上にそびえる山頂を見上げていた。ここから上の壁にはビッシリと霧氷が張りついていて、斜めに見ても逆さに見ても、とても登れる代物には思えない。互いに顔を見合わせ、そして笑った。悔しさがこみ上げてきそうなこの場面で、ユースケが叫んだ。「パタゴニア最高!」 ぼくとマスは思わず吹き出す。「あたりまえだろう、じゃなきゃ何度もここには来ないよ」 誰が言うともなく、ぼくたちは下降の準備をはじめた。ユースケに残されたパタゴニア滞在時間はあと12時間。彼に与えられたミッションは300メートルの壁を懸垂下降し、3キロメートルのガラガラのモレーンを転がり落ち、5キロメートルの氷河を歩き、15キロメートルのトレイルを這いつくばって、車道に出たら車を拾い、街に戻ったら荷物をまとめて、50キログラムのバックパックを背にヨタヨタとバスに乗り込む。天候のせいで何もせずに帰国することを考えれば、それだけのリスクと労力は受け入れられる。山頂に立てないのは残念だけど、大切なのはぼくたちがその場所でどれだけのエネルギーを費やしたかということ。そういう意味では、ユースケのエクストリームな行動には意味がある。

彼が山を降りた2日後、ぼくとマスは同じ山にもう1本ルートを拓き、満足感を胸に山を降りた。山に足を踏み入れれば入れるほど、パタゴニアのもつ可能性の大きさが見えてくる。だからこそぼくたちは毎年のようにこの場所に戻ってくるのだ。この氷河もまた例外ではなかった。ヨダレが出そうな未登の壁はたくさんあった。よし、また来年くればいいさ。

3度目のパタゴニアで学んだこと

「Atari」4ピッチ目(5.11d)をフォローする増本亮。写真:横山 勝丘 

3度目のパタゴニアで学んだこと

ティト・カラスコ(右側のピーク)のクライミングを終えて下降をつづける増本亮。写真:横山 勝丘

1年前、フィッツロイ縦走を試みた。結果は惨敗だったけれど、縦走の面白さに気づき、パタゴニアの奥深さを再認識した。「これからの1年間はフィッツロイ縦走のために費やしてみよう。それだけの価値のある行為だ」と思った。それからだ、ぼくの生活がフィッツロイ縦走を中心にまわりはじめたのは。春が訪れ、自宅の近所を中心に試行錯誤のトレーニング(この言葉を発すると、少なからぬ後ろめたさが残る。本気でトレーニングしている人に言わせれば、ぼくのやっていることはオママゴトにすぎないということを自覚しているからだ)がはじまった。秋のアメリカでは、公園閉鎖という忌まわしいハプニングに見舞われながらも、ザイオンのムーンライトバットレスとエル・キャピタンのフリーライダーを登った。

あっという間に1年が過ぎた。やるべきことはやった、そういう気持ちがあった。そんな思いで向かった3度目のパタゴニア。悪天候と山の悪コンディションを前に、ぼくたちはにわかボルダラーと化した(滞在したエル・チャルテンという街は、ワールドクラスのボルダリングエリアなのだ)。皮肉なことに、ようやく晴天周期が訪れたのは、帰国3日前だった。ぼくとマス、そしてユースケの3人は帰国を延ばし、ようやく溜まりに溜まったフラストレーションを発散した。トライしたのはフィッツロイ縦走じゃないけれど、この1年間やってきたことが生きている、そんな実感を得られたのもうれしかった。

満足感を胸に山を降りると、トミー・コールドウェルとアレックス・ホノルドのフィッツロイ縦走のニュースが耳に飛び込んできた。唖然として、しばらくは口もきけなかった。悔しいかって? 当然だ。誰だって、誰も成し遂げていないものを目の前にしたら、一番乗りをしたいものだ。でもそれは、彼らの能力の高さゆえの賜物であって、この快挙によってぼくたちのこれまでの行動に傷がつくわけでも、これからの行動が変わるわけでもない。むしろぼくたちに足りないもの、これからやるべきことが明確になったという意味ではよいことなのだ。

そしてもっと素晴らしい事実は、そうすることによってこれからの1年間、ぼくはまたピチピチとした生活を送れるということ。フィッツロイ縦走だけじゃない。パタゴニアで学んだことをもっと大きな山でも生かしてみたい、そんなアイディアがひとたび頭に入り込んでしまったら、もうそれを頭から除外するなんて不可能。夏にはパキスタンなんてのも乙だなあ、なんて思っている。また忙しい1年のスタートだ。

マスとユースケと3人で登ったあのクラックに、ぼくたちは「ATARI」と名付けた。毎度忙しくて、細かいことや数年後のことなんて考えている余裕はないけれど、つづけてさえいれば、たまにはアタリを引くこともある。たまに、でいいのだ。だからこそおもしろい。「パタゴニアから始まるクライミングライフ」、ただいま継続中。

追記、
山を降りたユースケは暗闇の中トレイルに出たが、そこで何度か道に迷い、谷をさまよった。車道に出るころにはすでに朝。タクシーで街に戻り、休むまもなく荷物をまとめてバス停にたどり着いたのは、バスの出発5分前だった。ぼくの部屋の片隅には、彼が運びきれなかった10キロのギア類が残されていた。

3度目のパタゴニアで学んだこと

フィッツトラバースを夢見た男たち(左から:トミー・コールドウェルジャンボ、マス、アレックス・ホノルド、コリン・ヘイリー、そして、ロロことローランド・ガリボッティ)。写真:ジャンボコレクション アンバサダーたちのパタゴニアでの日々のようすは #VidaPatagonia ライブアップデートでご覧いただけます。

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パタゴニア直営店にてアルパインクライミング・アンバサダーによるストアイベントを開催します。ぜひご参加ください。

パタゴニアから始まるクライミングライフ
スピーカー: 横山 勝丘「ジャンボ」 (パタゴニア・アルパインクライミング・アンバサダー)

3月21日(金・祝) 20:30~ 渋谷ストア (要予約:定員80名)
3月23日(日) 19:30~ 札幌北ストア (要予約:定員40名)
3月25日(火) 20:00~ 大阪ストア (要予約:定員40名)
3月26日(水) 19:30~ 京都ストア (要予約:定員40名)
3月28日(金) 19:30~ 名古屋ストア (要予約:定員40名)

2013年のクライミングは、フィッツロイ縦走のトライから始まりました。その時は残念ながら失敗してしまいましたが、改めてパタゴニアでのクライミングに魅せられると同時に、僕の生活はフィッツロイ縦走を中心に回り始めました。それからの一年間、国内でのトレーニングやヨセミテでのビッグウォールなど、僕は様々な場所で登ってきました。2014年を迎え、再びパタゴニアの地に足を踏み入れましたが、運悪く山は悪天続きで、フィッツロイ縦走のトライはおろか、まともなクライミングさえさせてもらえませんでした。それでも、この一年間やってきたことは僕自身にとって非常に大きな経験でしたし、また、パタゴニアへの思いもこれまで以上に強くさせられました。この一年間の活動と、今後の展望をお話します。

お問い合わせ/ご予約は各ストアまで。

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世界に誇る日本の山々
スピーカー: 花谷 泰広 (パタゴニア・アルパインクライミング・アンバサダー、山岳ガイドFirstAscent主宰)

3月26日(水) 19:30~ ゲートシティ大崎ストア (要予約:定員80名)
3月27日(木) 19:30~ 横浜ストア (要予約:定員40名)
4月10日(木) 19:30~ 神戸ストア (要予約:定員30名)
4月11日(金) 19:30~ 京都ストア (要予約:定員40名)
4月13日(日) 19:30~ 福岡ストア (要予約:定員40名)

日本は小さな島国だ。しかし国土の7割が山岳地帯という山国でもある。四季の変化があり、一年で山の表情が大きく変化するのが特徴だ。特に冬の気象条件は厳しく、日本海側の圧倒的な積雪量や数日間続く悪天は、海外で登っていてもそこまでシビアな状況になることは少ない。一方で繊細な自然美は、大陸の雄大さとは違った美しさがある。そんな日本の山は世界に誇るべき存在であり、世界に通じる大切な環境でもある。ガイドとしてクライマーとして、一年中日本の山を登っているが、その中でも活動の中心になっている中部山岳地帯を中心に、日本の山々について改めて語ってみたい。

お問い合わせ/ご予約は各ストアまで。

このほかにもパタゴニアの直営店ではさまざまなイベントを予定しています。詳細はストアイベントをご覧ください。

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