バンでの生活 – 路上から学んだ教訓
「それは捨てないで。再利用できるから」と彼女が言った。
僕はアマゾン川ほど濁った水が入った小さな鍋を握っていた。
「もう残り少ないから、捨てずにここに入れて」
彼女は正しかった。11月下旬、カリフォルニア州ビショップでの寒い夜。明日もまたボルダリングを最高に楽しむため、必要なものは十分すぎるぐらい持っていた僕らに唯一足りないものが水だった。気を付けていればギリギリではあるが最後まで十分足りるという状況だった。水を無駄遣いしたら町まで車で戻らなくてはならず、ガソリンまでも無駄にしてしまう。もしくは脱水状態で最悪な状況ですごすという選択肢もあるが。
もうひとつの鍋に皿洗いで汚れた水を流し、その水をさらに5回皿洗いに使い、その2日後に食料が底をついた。
去年の春、僕と妻はバンを購入し、そこに引っ越したあと結婚し、カナダの寒い冬の4か月のあいだ旅にでた。僕たちが最初に立ち寄ったのがビショップだった。
近頃はバンに住んでいる(住んでいた)と言うことはそれほどクレイジーではないように思う。ほとんどの人が実際経験しているか、いつかはやってみたい、あるいはもう一度やりたいと考えている。もし、どうせわびしい生活なのだろうと思っていたら、ぜひ考え直してほしい。バンで生活するということは世界全体が自分の裏庭になるということ。
外で生きて愛するのだ。
僕にとって一番いいことは生活が自然のリズムとつながること。暗くなったら寝て、明るくなったら起きる。お腹がすいたら食べ、のどが乾いたら飲み、ひんやりしたそよ風をうけながら星空の下で用を足す。
バンでの生活が教えてくれたことは「欲しい」と「必要」の違い。僕は山を欲しいと思わない。必要としているのだ。でもこの話のスケールはもっと大きく、モロッコに浮かぶ金張りのヨットのようなばかげた贅沢から生存に最低限必要なきれいな飲み水までを含む。必要なものすべて持っていたら、その他のすべてはただ「欲しい」だけなんだ。
バンでの生活は僕たちにいつもより少ないものですごすことを強制し、感謝の気持ちを一層与えてくれた。じつにありがたいことだ。車での生活に役立つアドバイスと利点をまとめてみた。
- 家まるごとを温めるより少ないコストでバン一台を温めることができる。
- 家賃やローンを払わなくていい。
- 本当に必要なときだけシャワーを浴びるから、お金、エネルギー、資源を節約できる。僕たちはコミュニティーセンター(市民会館)でシャワーを浴び、地域経済に週平均6ドル貢献した。
- 車での生活では歯磨きするとき口いっぱいに含める水くらいで十分。まずひと口すすいで、ひと口飲み、それから歯を磨く。もうひと口で歯ブラシをすすぐ。
- 洗顔はタオルで済ませるので、少ない水で済み、耳の後ろもごしごしこすれる。
- パスタをゆでた水は紅茶用にとっておいた。
- リディアは野菜を蒸した水を必ず飲んでいたので、多くの栄養素を吸収し、水分補給も無駄なくできた。
子供のころ、皿洗いをしていたら父がいつも水を止めろと怒鳴っていたことを思い出す。たぶん父は水そのものではなく、温水を節約したかったのだろう。でも父から教えられたことは無意味なことではなかった。水を無駄に流している自分に気が付いたときには、いまでも父の声が聞こえてはっとする。
バンでの生活はだれにでも向いているというわけではないし、僕たちも時間が経つと別の生活が必要になった。それでも深くて豊かな経験だった。どちらがいいか悪いかということではなく、ただ違うということなんだ。
この話がどこに向かっているかお分かりだろうが、それでも言わせてもらう。バンで生活した月日から学んだもっとも重要な教訓は、僕たち社会がどれだけの水を無駄にしているかということ。もちろん説教をするつもりではないので好きにやってほしい。でもいつの日か子供たちがいまの僕たちのように贅沢なものを持てない日がくるかもしれない。子供たちが欲しがるものが必要なものだとしたら、そのひとつが水なのかもしれない。
ソニー・トロッターはブリティッシュ・コロンビア州スコーミッシュ在住のパタゴニア・クライミング・アンバサダーであり写真家。彼の偉業はディープウォーター・ソロからビッグウォールまであらゆるスタイルのクライミングで達成されている。彼の旅のようすはsonnietrotter.com/roadlifeで追いかけることができる。
さらにあなたがバンのオーナーであれば、ソニーの妻のリディアが書いたバンでのヨガについての投稿や、TumblrやInstagramの#vanlife タグもぜひチェックしてみてはいかがでしょう。