野生動物のための橋:移動中のプロングホーンが新たに建設されたオーバーパス(高架通路)に出会った
グランド・ティトン国立公園から南東約270キロにある越冬地へと移動するプロングホーン・アンテロープは、河川、フェンス、高山の峠、分譲住宅地、エネルギー開発地など多数の障害物に直面します。移動コリドーの道中でとりわけ危険なのがワイオミング州パインデールから約10キロ西にある、トラッパーズ・ポイントと呼ばれるボトルネック地帯。ここは2つの川が接近してふたたびはなれ、砂時計のような輪郭を描きながら幅約1.6キロの細長い地形を作っています。ボトルネック地帯の東半分には住宅地が広がり、ボトルネックのいちばん狭い部分はジャクソンホールとインターステート80号線をつなぐハイウェイ191号線が東西に走り、ハイウェイの両側には有刺鉄線のフェンスが張られています。
編集者記:今回はフリーダム・トゥ・ローム・キャンペーンのアップデートをお伝えします。パタゴニアのリック・リッジウェイは4年前にジョー・リースと組んで、プロングホーンの移動および移動ルートで直面する人工障害物の記録に着手しました。
2008年10月のある日、ナショナル・ジオグラフィック・ヤング・エクスプローラー助成金受給者のジョー・リースは、トラッパーズ・ポイントでハイウェイを横断する約700頭のプロングホーン・アンテロープの写真を撮影しました。それはプロングホーンの移動過程の詳細を写真で記録するという2年間のプロジェクトの一部でした。雪に埋もれたトレイルに群れをなすプロングホーンは有刺鉄線のフェンスの下をくぐり、ハイウェイを走る自動車やトラックの合間を全速で駆け抜けていました。横断後、もうひとつのフェンスでくぐれそうな場所を探していると、住宅地から来た犬が吠えかかり、慌てふためいたプロングホーンはそのまま南に走っていきました。
春や秋にトラッパーズ・ポイントを車で通り過ぎると、路肩にプロングホーンの死骸を目にすることが少なくありません。有刺鉄線のフェンスを容易に飛び越えられるミュールジカはさらに被害を受けやすく、その死骸はトラッパーズ・ポイントから西北20キロのハイウェイ沿いに散乱しています。この区間では年間平均140頭の動物が命を落とします。
しかし今年、このような状況が変わりました。春と秋にトラッパーズ・ポイントを通過する何千頭ものミュールジカとプロングホーンは、この秋はじめてハイウェイの上に建設された幅の広い橋――野生動物のためのオーバーパス――に遭遇したのです。
これまで有刺鉄線のフェンスがあった場所には、下をくぐることのできない高さ2.5メートルのフェンスが立てられました。オーバーパスの写真を撮影するためにこの秋トラッパーズ・ポイントに戻ってきたジョーが目にしたのは、フェンスの前で立ち止まり、そこをねぐらにするプロングホーンや、突破口を探しながらフェンス沿いを走り、やがてオーバーパスを見つける雄のプロングホーンの姿でした。雄はためらいがちに群れをオーバーパスの北側の斜面へと率いていきました。
このプロジェクトの中心となったのは意外にもワイオミング州運輸局でした。連邦政府の補助金は得られなかったものの、同局はトラッパーズ・ポイントともうひとつ別のオーバーパス、6つのアンダーパス(道路下通路)、ハイウェイの両側20キロ区間に設置するフェンスの建設費用として970万ドルを支給しました。安全な移動ルートの確保はシカやプロングホーンなどの野生動物の命を救うだけでなく、動物との接触事故が削減するために州やドライバーに大きな節約となり、12年でこのプロジェクトの費用を回収できるのです。
しかし数字だけではプロジェクトの認可にはいたりません。ワイオミング州運輸局はオーバーパスやアンダーパス、フェンスの完成後、野生動物がそれらをずっと使いつづけることができるよう移動コリドー全域が適切に保護されていることなどを確認しなければなりません。
ワイオミング州西部のプロングホーンの移動保護データを管理するワイオミング州野生生物管理コーディネーターのスコット・スミスは、「いま現在かなりいい状態です」と言います。米国土地管理局はトラッパーズ・ポイントを重要環境懸念地域に指定し、ガス掘削やその他の開発を禁じ、米国森林局は移動ルートの最北部72キロを米国初の全米移動コリドーに指定しました。また生物学者は野生動物に首輪を付けて移動ルートをマッピングし、道路の横断個所を突き止めました。さらに地元の土地信託はフェンスをプロングホーンがくぐり抜けやすいものに換え、またグリーン・リバー沿いの私有牧場が宅地開発されないように保全地役権を設定しました。そして今年オーバーパスが完成。「この10年間でパズルのピースが徐々に組み合わさり、すばらしい成果を生み出しています」
ワイオミング州運輸局はこのプロジェクトが市民に要望されていることをたしかめる必要もありました。ジョーが撮影した移動中のプロングホーンの写真を州内外の数千人が見た結果、この5年間でプロングホーンの長距離移動はワイオミングでもっとも称賛される野生動物の話題となりました。プロングホーンが車のあいだを走り抜ける姿を撮ったあの10月の日のジョーの写真が、人びとの心を強く動かしたのです。
「前回トラッパーズ・ポイントに来たときは、プロングホーンはハイウェイを横断していたんです。そして4年後のいま、彼らはオーバーパスを渡っています」とジョーは嬉しそうに語ります。
オーバーパスの両端には上にフェンスを立てた2.5メートルの土手があり、プロングホーンには土手の下にあるハイウェイもそこを走る車も見えません。そしてオーバーパスの真上に来ると、ようやく南側に広がる丘とメサ、そして越冬地の一端が見えてきます。プロングホーンはオーバーパスを下り、セージの平原を一斉に駆け出します。
「プロングホーンにとってはまったく新しいものなので、今年は戸惑うでしょう」とオーバーパスについてジョーは語ります。「でも来年の春はここに橋があることを覚えていて、そして秋にはまったく躊躇せずに通り過ぎるでしょう」
ジョーは人間もこのプロジェクトから学ぶことを期待しています。オーバーパスを渡る動物の航空写真とクローズアップ写真はこのプロジェクトが野生動物にとってどれほど重要であるかを理解する手がかりになるかもしれません。「同じような問題に取り組む人たちにオーバーパスがちゃんと機能している様子を見てもらい、それぞれの地域のプロジェクトに役立ててほしいのです。このようなハイウェイのプロジェクトは軌道に乗りはじめたばかりですが、ゆくゆくはあらゆる場所で見られるようになるでしょう」とジョーは語ります。