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自分の可能性を信じて

辰己 博実  /  2012年11月5日  /  読み終えるまで8分  /  スノー

チェアの重さを生かしたターン。写真:藤村直樹

自分の可能性を信じて

チェアの重さを生かしたターン。写真:藤村直樹

夏はサーフィンとカヤックとクライミング、冬はスノーボードにスキーやテレマークスキーと、ニセコをベースに楽しみながら、ガイドをして生活していた私は、2008年3月10日、スノーボード中の事故により背骨を脱臼骨折し、脊髄を損傷して歩くことのできない体になった。

事故は一瞬の出来事だった。その日は休みで朝からいつものようにキッカーを飛んで遊んでいた。これで最後のジャンプにしようと飛んだキッカーのリップが日射によりゆるんでいて、スピンをしようとかけたトゥエッジがとられ、あわててヒールエッジに切り替えた瞬間、バランスを崩したまま空中に逆さ状態で投げ出されていた。頭から落ちないように何とかリカバリーしたが、飛距離が出すぎていて、ランディングバーンを越えてフラットに背中からたたきつけられた。その瞬間、それまで経験したことのない衝撃とともに、打ち付けた背中を中心に頭と足に向かって物凄い電流が流れ、腰から下の感覚と自由を失った。激痛に耐えながらヘリコプターで病院に搬送され、精密検査の結果、脊髄の脱臼骨折、一生歩くことのできない車いすでの生活になるとドクターから告げられた。結婚したばかりで子供もいる父親が一生歩くことができない。いままで自分のライフスタイルであり、仕事としてやってきた大好きなことがもうできなくなってしまった。最初は絶望だけだった。

しかしその絶望から救ってくれたのが、脚が使えなくても手で運転ができる車と、チェアスキーでパウダースノーを楽しそうに滑る写真を見つけたことだった。チェアスキーでパウダーを滑っている人がいるなら俺にもできないはずはない!目標が見つかったあとは、少しでも体の使える部分を増やそうとリハビリに励んだ。最初は手を放して座ることもむずしかったのに、訓練をつづけることで座位でのバランスが格段に良くなり、もっと色々なことができるんじゃないか、カヤックにも乗れるんじゃないか、と可能性を探るようになった。それから病院のプールにカヤックを浮かべる許可を取り、友人にカヤックを持ってきてもらって乗ってみたところ、漕ぐことはできた。だけどひっくり返ったときに起き上がることができない。フィッティングを作りこんで体に合わせることができれば、やれないことはないんじゃないかと考え、試行錯誤していくうちに希望と期待はどんどん大きくなっていった。4か月間の入院生活を終え、自分で車を運転してニセコに戻った私を家族と多くの友人たちが温かく迎えてくれた。さっそく「カヤックで川を下りたいと」言う私をガイド仲間たちがサポートしてくれ、大好きなフィールドに戻ることもできた。何度も練習を積んだ結果、ひっくり返っても起き上がれるようになり、下れる川も多くなって楽しみがどんどん広がった。

自分の可能性を信じて

春の北海道は雪解けで増水した川と雪山が楽しめる最高の季節。写真:藤村直樹

ケガをしてからはじめての冬を迎え、ゲレンデに帰ってきた私を、冬山と川の恩師である中沢静登氏がチェアスキーのサポート法を学び、助けてくれた。最初は思うように滑れず苦戦したが、いままでやってきたスノーボード、スキー、テレマークスキーの雪上での経験とカヤックでのボディーワークを生かし、だんだんと自由に楽しく滑れるようになり、大好きなパウダーも楽しめるようになった。そして自分の力では行くことのできない念願のアンヌプリにも、多くの友人たちの力を借りて山頂に立ち、滑走することができた。久しぶりにアンヌプリ山頂に立った感動はいまも忘れない最高の思い出で、「やっと帰ってきた」と実感した。このころから前の職場の友人である藤村直樹(ニセコ雪道楽)が写真を撮ってくれるようになり、自分の滑りを確認することでより滑りを追求するようになった。

自分の可能性を信じて

友人たちの力を借りてアンヌプリ山頂へ。写真:藤村直樹

そして、ファットスキーのパウダーでの浮力に限界を感じてスノーボードでの滑走を試みるも、なかなかうまくいかずに思うような滑りができない、そんなときにニセコでスノーボードを作っている〈GENTEMSTICK〉玉井太朗氏に出会い、チェアとスノーボードの取り付け部のアイディアをいただき、さらにスノーボードも提供してもらうことになった。玉井氏から得たアイディアを形にするため、実家の鉄工所に自分で書いた図面を持ち込み、父と相談しながらチタン合金製の取り付け金具を完成させた。また四国・徳島県の実家にいるあいだは、吉野川の大歩危や小歩危でダウンリバーを、海でサーフカヤックを楽しんだ。ある日海に入っていると、「ハンディキャップあるのにすごいな」と声をかけてくれた人がいた。〈氣サーフボード〉の櫛本喜彦氏だった。色々な話をするうちに、サーフィンも諦めていないことを話すと、私のために板を削ってくれることになり「この板に乗ってから、どんな板がいいか考えよう」とテストボードまで提供してもらった。冬になり、ニセコに戻ってチェアスノーボードのテストをした。ファットスキーより板の幅が倍以上になったので色々不安もあったが、ひとたび乗ってみるとスキーでは味わえないパウダーでの浮遊感と〈GENTEMSTICK〉ならではのエッジグリップの良さ、そしてカービングターンの切れにチェアスノーボードの素晴らしい世界が新たに広がった。

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四国のリーフポイントにてサーフカヤック。Photo: A-hon

冬の活動で自分のやれることを確認できたことにより、2011年7月から〈Youtei Outdoor〉というアウトドア事業を、羊蹄山の湧水が流れ込む美しい池で、妻と2人ではじめた。多くの人にニセコの魅力を体験してほしいという思いから、夏はラフティングボートでのツアーやカヤックに乗ってガイドをしながら、小さな子供から障害のある方までみんなが楽しめるアウトドア体験、そして冬はチェアスキーで楽しく滑るためのツアーを滑走技術と道具の両面から提案し、妻がスノーボードとスキーのキッズレッスンからゲレンデのコンディションの良い所を案内するツアーまでを行っている。そんな活動のひとつにパラカヌースプリントの話をいただき、2012年度の日本代表としてポーランドで行われた世界大会に出場。10位という公式記録も残すことができた。

ケガをしてからの4年間、家族には迷惑をかけながらも、がむしゃらにやってきた。ここまでこれたのは、自分のやっていることに可能性を見出せたことと、楽しんでできることを見つけられたこと、そして家族や多くの仲間たちやパタゴニアをはじめ、多くのメーカーの人たちの支えがあったからで、大変なことも楽しんでやることができた。それに父親として息子にはかっこいい親父でありたいと思う姿勢も大きいだろう。

最後に、私のやっていることは特別なことではありません。自分にできることがたまたまこういうことだっただけで、大変なことも多いが少しの工夫と挑戦する勇気があれば、やれることは意外と多いのです。重要なのは自分が本当にやりたいことを見つけて、それにどれだけ情熱を注げるかということ。私の活動を見た人が何かを感じ、自分をプッシュするきっかけになってくれれば最高です。これからも多くの人に助けられながら、限界を作らず諦めず、楽しむことを忘れずにやっていきたい。

限界を決めるのは他人ではなく、自分自身だから。

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羊蹄山の湧水の池でラフティングツアー。Photo: Youtei Outdoor

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辰巳博実氏がパウダーにラインを描く写真が『Holiday 2012』カタログに採用されました。本カタログは現在パタゴニア直営店で無料配布しています。またカタログ請求ページからもご請求いただけます。

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