Words of wisdom – ジェリーロペスが教えてくれた「Surf is where you find it」
この夏、パタゴニア・アンバサダーの岡崎友子が名古屋/サーフ東京/仙台/札幌北の各ストアで「Words of wisdom」と題したスピーカーシリーズを行いました。そこではさまざまなスポーツにかかわりながら世界中を旅し、また多くのマスターたちにインタビューしてきたなかで彼女の心に残っている言葉やできごと、そしてそこから自身が感じたことや学んだこと、受けた影響などについて語られましたが、そのなかでも多くの方が興味をもったトピックや知りたいと思っていた人たちのことについて、もう少し話をしてもらいました。
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私はどこに行っても何をやっても、そのためにいちばん必要な先輩や最適のマスターに導かれる幸運に恵まれてきました。彼らがいなかったらいまの私は在りえないと、心から思っています。そして、そうした人たちのなかでもさまざまな意味でもっとも影響を受けたのが、パタゴニアのアンバサダーでもあるジェリー・ロペスです。
私がマウイに通いはじめた当時、ジェリーはマウイに住んでいました。ウインドサーフィンにも熱心で、マスタークラスではつねに優勝候補でした。だから最初はサーファーというよりウインドサーファーとしての印象が強かったです。そして、どんなときもにこやかでした。友人のボーイフレンドがジェリーの下でシェイプをしていたことや、ジェリーのボードに乗っていたために彼の親友でもある植田義則氏(彼にも多くのことを教えていただきました)にボードをお世話になっていたことなどもあり、ふとしたときに聞いたたくさんの興味深い話や言葉から、その後もずっと自分のなかに残る「教え」のようなものをいただいてきました。
パイプラインの神様と呼ばれる立場や、スタイルや時代を作り上げてきた偉大な功績にもかかわらず、彼の真のすばらしさは誰にでも変わらぬ態度でオープンマインドな姿勢をつねにもっていることだと思います。真のマスターとは、「技術に長けているだけでなく、謙虚であること」は、彼を見てから理解できるようになりました。追求する分野で秀でているだけでなく、そこから人生に必要な学びを得た人だからなのでしょう。会社の経営者でも学者でも、もちろんスポーツ選手でも、驚くような業績を上げているにもかかわらず、謙虚で人や自然への敬意を忘れずに行動している人たちを見ると、ああ、この人はジェリーと同じ、真のマスターだと思えるようになりました。
ジェリーに関してのエピソードは尽きることがありません。
もうずいぶん前のことですが、あるときジェリーが自身のサーフボードとスノーボードのプロモーションのために来日していました。展示会で、私は彼の斜め前のブースにいたのですが、そのまわりをそわそわ、うろうろしているプロスノーボーダーがいました。当時ニュースクールの先駆け、またビッグクリフを攻めるライダーとして有名なスティーブ・グラハムでした。声をかけると、「ああ、じつはジェリーのファンなんだけど、握手してくれるかな」と普段のワルぶりからは想像もつかないようなミーハーな言葉。ジェリーなら顔見知りだから紹介してあげると言うと、なんだかアイドル歌手に会いにいく若い女の子のように付いてきました。途中ちょうどもう一人のプロボーダー、トム・バートもやって来て3人でジェリーのいるブースに向かうと、彼がそこに立ってこっちを見ていました。そして私が彼にトムとスティーブを紹介しようとするよりも先に、ジェリーが満面の笑顔で私たちのほうへ歩いてきて、「おお、スティーブ・グラハムとトム・バートじゃないか。君たちは僕のヒーローだよ。君たちのライディングを何度ビデオで繰りかえし見たことか。会えてうれしいよ」と握手を求めてきたのです。スティーブがジェリーにしたかったことを、ジェリーがスティーブに求めてきたので、スティーブは何がなんだか訳がわからず、あっけに取られて言葉もでない様子でした。
ジェリーはトウインサーフィンにおいてもパイオニアの一人としてジョーズに挑み、デザインにも深くかかわり、シェイパーオブザイヤーに選ばれたほどです。当時はまだトウインに反発する人たちが多くいたにもかかわらず、固定概念にとらわれずに何事もトライしてみる精神をつねにもっていたからこそ、いまでも現役でシーンをリードする存在でありつづけるのでしょう。またスタンドアップパドルにも早くからトライし、シグニチャーボードが出るほどの入れ込みようで、第一人者として活躍。過酷なモロカイクロッシングにも挑戦し、若手の現役選手がもう次の種目に出たくないと泣き言を言うほどのハードなバトル・オブ・ザ・パドルのレース内容を全種目参加したほどのバイタリティーです。そしてそんななか選手たちに見せる親密さが、ティーンエイジャーから同年代のサーファーまでの誰もが彼を尊敬し、時代や世代を超えたヒーローとなる理由なのだと思います。
オレゴンに撮影に行ったときのこと、雪が降っていたため翌日の撮影のアポがあまりに朝早くからでは悪いかな、と気を使ったところ、「とんでもない。明日はパウダーだから早く行かないといい雪がなくなってしまうよ。8時までには行っていないと」と、逆に強く言われてしまいました。翌朝8時に行ってみると待ち合わせ場所にジェリーは居ず、「おーい」と声が聞こえると、待ちきれずにすでにリフトに並んでいた彼が手を振っていました。
またあるときフリーライドを撮影してから彼のあとについてスノーボードパークに向かったところ、週末だったこともあって、小中学生くらいの子供たちがワイワイと滑る順番を待って列になっていました。ジェリーは当たり前のように一緒に並び、子供たちのなかに入って楽しそうに話していました。半分くらいの背丈の子供たちのなかにただ一人の大人が並び、一緒になってキッカーを飛んでいる。そんなジェリーを見て、何か大切なことを教えられました。
彼の住むベンドはオレゴンの内陸部にあり、海まで3時間かかるのですが、自宅か15分のところに農業用水路でミニウエイブプールのような場所があり、そこでサーフィンの撮影をしたことがあります。ミスターパイプラインがこんな波でサービスしてくれるなんて、と申し訳なく思っていたら、翌日家を訪ねたときもそこから帰ってきたばかりで、濡れたウェットスーツを干していました。じつはサービスでも何でもなく、そこに毎日通っているようでした。自分自身が贅沢にならなければ、どんな波でも楽しめるし、良い波なのだということが、そのときの彼の爽快な笑顔を見てよくわかりました。彼はまさに「Surf is where you find it」 を実践していました。
この言葉は海でだけでなく、自分の置かれた環境や状況に納得がいかないときや不満を感じるとき、あるいは贅沢になっているときなどに、しばしば私の頭に浮かんできます。何かいやなことがあったり満足できない状況にいたりするときは、見方を変えることでそれが良い意味をもつことになりうる。海だけでなくすべてにおいてそう心がけることが大事なのだと、ジェリーは教えてくれました。言い変えれば、自分自身がハッピーでありさえすれば、どんな状況でも幸せを見つけることができるということです。
ジェリーはよくサーフィンほどむずかしいものはないから、それをマスターすることができれば何でもマスターできる、と言います。そして一生かけて学ぶ価値のあるものだとも。サーフィンを一生つづけることで人生をマスターするとができるなら、こんなに楽しく素晴らしい学び方はありません。ジェリーも65歳でさらに上達中なのですから、私たちはまだまだひよっこです。Keep paddling!
『ジェリー・ロペスの著書『SURF IS WHERE YOU FIND IT』には、ジェリーがサーフィンと出会った10歳のころから現在にいたるまでの39のストーリーが綴られています。波の上を流れる優雅なラインを描くようなストーリー展開に加え、サーフィンを通して彼がたどり着いた人生観はサーフィンをする人に限らず、まだ一度もサーフボードに立ったことがない人や、波に乗ったことがない人をも魅了することでしょう。
パタゴニアの直営店では、アウトドアスポーツに情熱を注ぎ各地で活躍されている方や、草の根的な自然活動を実践している方などをゲストとして招き、スライド等を交えながらお話をしていただくスピーカー・シリーズやその他イベントを行なっています。詳細はパタゴニアウェブサイトのストアイベントをご覧ください。