バンフ映画祭、いよいよ開催:パタゴニア・アンバサダーのバリー・ブランチャードから日本のバンフ・ファンへメッセージ
編集注記:パタゴニアの最初のアンバサダーのひとりであるバリー・ブランチャードはカナダ最高のアルピニストとして知られ、また世界最高のアウトドア映画祭であるバンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバルの地元、カナダ・アルバータ州で暮らしています。今日は一足早く映画祭を楽しんだバリーが、日本のバンフ・ファンのために、『BANFF Mountain Film Festival in Japan 2011』で上映される作品について投稿してくれました。
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バンフから少しはなれたあるひとつの山、マウント・ランドルでの時間を生きるのはとてもたのしい。11月の最初の週はたいてい寒くて、カナディアン・ロッキーはその年はじめての、とても魅力的なアイス/アルパイン・クライミングの機会をもたらしてくれる。そして、その寒さと同時にやってくるのが、世界的に有名な『バンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバル』だ。昨年と同じように今年も、映画を見に行くか山に行くか、葛藤した。そしていつものように、どちらをも取った。だから全作品は見ていない。でも僕が見た作品はどれもすごく良かった。本当にすばらしかった。では、それらを少しだけ紹介するとしよう。
僕が「2人のスイス人の足跡」と呼ぶ2本の作品がある。そのひとつはある若者が熱狂的にクライミングするストーリーだ。『The Swiss Machine』のウエリ・シュテックのクライミングとトレーニングへの献身には驚かされる。ウエリはアルピニズムに対する彼の追求をほとんど狂信ともいえるレベルまで高めた。もしあなたがドアの外へ飛び出す何かを探しているのなら、この作品は間違いなく背中を押して、エンジンを始動させてくれることだろう。ウエリとアレックス・ホノルドが最初に出会って自己紹介しあうときの気まずいシーンでは、ウエリの人間性が前面に現れ、痛ましささえ感じる。ウエリがエル・キャピタンから墜落したあと、長い間リーダー的地位を獲得してからはなおさら彼の人間味が出るようになったと思う。
ロングフォールは僕たちの誰もがもつ人間性を引き出すのに十分な経験だと思う。僕の友人でもあるマウンテンガイドのルエディ・ベグリンジャーは2003年1月、タンブルダウン・マウンテンで起きた大規模な雪崩にのまれた。そしてその日彼とともにいたスキーヤー7人が亡くなった。僕は『A Life Ascending』という作品がとても好きだ。スイスの山々で暮らしていた幼いころのルエディをも知ることができ、そしてカナダでのこのつらい試練を通じて彼が成熟していくようすをよく伝えている。悲劇を描いたこの美しい作品のなかで、ルエディと彼の家族は時とともに受け入れられていき、そして最終的には、セルカークスの高峰と氷河が彼らを救ってくれる……のだと僕は思う。
『Into Darkness』のなかにも美しさを見た。めったに見ることのできない、地下にひそむ美しさ。別の方法で見るのはとてもむずかしいだろう。また『Lifecycles』は偽りなく自転車とカメラの勝利による作品であり、息をのむようだ。また次の2本のショート・フィルムは僕に席を立たせ、ドアの外へ出掛けさせたくなるような作品だった。『Living The Dream』ではある男と彼の愛犬と強烈なヘルメット・カムが1日にできることをレナン・オズタークが見せてくれる。『Oseven』はものすごいアンペア数で、パラグライダー、ウィングスーテッド・パラシュート、マウンテンバイクをメドレーで見せてくれる。クライミングについてはほんのわずか触れているだけだが、すべてがリズミカルにすばらしいベースラインへと向かい、フロイトの言葉「幸福は成熟期に達成される子供の夢である」を証明している。
僕は若かったころ、登山家になることを夢見ていた。だからドアを開けて、氷の山へ向かった。そのことを思い出した。
–バリー・ブランチャード