製品テスト:新しいR1とR2で山登り
私たちはさまざまな段階でギアをテストします。パタゴニアのアスリートやアンバサダーは、新製品がパタゴニア製品ラインに加えられる前に最新のデザインや素材の力量を試す役割を果たしています。でも何かが納品されたからといってテストが終了したわけではありません。新製品がカタログに登場したら、カスタマーサービスのスタッフは現場検証にいそしみます。カスタマーが聞いてくるであろう質問を予期し、それと同じ目で私たちのギアをテストするのです。
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フィールドレポート:ネバダ州のマウント・モライアとコロラド州のマウント・エルバートを登る
コンディション:涼しく、風のある状態
テストした製品:ウィメンズ・R1ジャケット、メンズ・R2ジャケット
テスター:リノで勤務する僕とガールフレンドのドクター・リズ
パタゴニアのレギュレーター・フリースがポーラテック社の協力を得て改良された。ウェブサイトの情報によると、新しいモデルはより高い保温性とコンパクト性を備え、さらに軽量化されたとのこと。それらは間違いない。けれども、僕はいつも不思議に思っていた。「収納性が23%アップ」とか「通気性が29%アップ」というのはどういう意味なのか。そうした情報はどうしたら僕にとって意味をなすものになるのか。僕の新しい R1の収納性が23%高まったということは、スニッカーズをもうひとつ入れる余裕ができるということなのか?(ヤッター!) 新しいR2の通気性が29%上がったということは、ハイキングに行ったときに、あまりにも愛されながらめったに洗濯されない僕のキャプリーン・ベースレイヤーの臭いが僕の彼女の鼻に届いてしまうということなのか?(ヒェーッ!)
事実を解明するときがきたようだ。僕の同僚が最新かつ最高のキャプリーンとレギュレーター製品の入った箱を手に入れていた。僕は当然のこととして、これらの改良された製品についてよく知るために、彼に援助を申し出た。僕と彼女はハイキングの予定があったので、彼女も巻き込むことにした。そして同僚からからテスト用の製品が手渡された。彼女のリズにはウィメンズ・R1ジャケット、僕にはメンズ・R2ジャケットという課題が提供された。では、レディーファーストで、ウィメンズ・R1・ジャケットのレビューからどうぞ。
ウィメンズ・R1・ジャケット
私が知る他の多くの女性と同じように、私も体感温度には敏感です。さっきまで寒いと思っていたのに、すぐに燃えるように暑くなったりします。ですから私はレイヤリングのファンで、レイヤリング用にとさまざまなウェアを持っています。 寒い屋外でのランニングやハイキング用のお気に入りのなかには、キャプリーン2と4やストレッチ・ベロシティー・プルオーバーなどがあります。さらに寒いハイキング用には、ダウン・セーターやフーディニも常備しています。今回R1ジャケットをテストする機会を頂いたとき、すでに持っているたくさんのレイヤー製品にこれを追加する意味があるのかどうか、たしかではありませんでした。でも、私の疑いは間違っていました。
最初のテストでは、ネバダ州東部にあるマウント・モライアを西側から登りました。彼と私はこの標高3,600メートルの山頂を目指すのに、非常に風の強い日を選んでしまいました。R1ジャケットを着ただけの状態で3,000メートル地点からつづく13キロのトレイルを登りはじめたときは、300メートルも登らないうちにダウン・セーターかウインドジャケットを取り出すことになるだろうと思っていました。予想通り、寒さも風も一歩ごとに増していきました。けれども手袋と帽子をつけると、R1しか着ていないにもかかわらず、驚くほど温かいことに気づきました。このジャケットの通気性のおかげで私はドライで、そのために登っているあいだ、ずっと温かかったのはいうまでもありません。標高が上がってもウインドジャケットを取り出したくなることもなく、風速80キロの強風のなか、R1のみで登頂してしまいました。
1週間後、コロラド州のマウント・エルバート(標高4,401メートル)でふたたびR1をテストするチャンスに恵まれました。肌寒い早朝、同じようにスタートは3,000メートルからで、R1には完璧なコンディションでした。今度の場合も、マウント・エルバートを登りながらさらなるレイヤリングが必要になると予想していました。とくに森林限界を超えたあたりから風も強まり、山頂まではまだ標高600メートルもあったからです。手袋(これも私のお気に入りのクレイジー・ホット・ハンズ)をはめて帽子をかぶったあと、ウインドジャケットを取り出そうかとも思いましたが、ホテルに置き忘れてしまっていました。私に残された選択肢はR1を着たままでいるか、信頼できるダウン・セーターに着替えるかでした。結局R1のままでいることにしたのですが、コロラドの頂上でも非常に快適でした。誤解しないでいただきたいのは、マウント・エルバートの山頂にいたとき、温かかったわけではありません。でも凍えてもいなかった、ということです。もし凍えていたら、恐ろしいほどの詳細でその状況をお伝えしていたことでしょう。私は寒すぎると本当に悲惨な人間なのです。
R1がキャプリーン4(もしくはキャプリーン4とウインドジャケットの併用)と比べて優れている点は、機能的なジッパー式ポケットが付いているのでリップクリームやティッシュの出し入れが容易ながら、トレイルに落とす心配が無いこと。私はフードなしのジャケットの方が好きなので、この点も気に入っています。R1ジャケットが魅力的なスタイルであるのはいうまでもありませんし、私はカジュアルなディナーや仕事にも着ていきます。ネバダ州の職場の服装は他の土地と比べてもカジュアルな場所かもしれませんが、寒い朝晩にはもってこいですから。
全般的にR1には大満足しています。機能的でデザインも良く、予期せずして私のワードローブのレパートリーが増えました。
お待たせしました。次は、男性の皆様へ、
メンズ・R2ジャケット
僕は初期のR2を好きになろうとしたんだけど、どうしてもできなかった。もちろん、最も万能なレギュレーター・フリースで、めちゃくちゃ通気性がよくて、軽くて、ものすごく小さく収納できて…なんてことは分かっていた。普通のフリースに比べたら最高。それでも僕は好きになれなかった。中間着としてバックカントリースキー中なんかにジャケットの下に着たら、すぐに温かいパン生地で作られたシャツに身を包まれたような感じになってしまう。そしてこれだけを単独で着るのは。また程度の異なる体験。「通気性に優れている」という説明には引き付けられない。通り過ぎる鳥の羽ばたきのような風を感じたからだ。
このように、初期のR2では寒さで凍えるか暑さで溶けるかの僕だったわけだ。僕にとってそれは自分の古いバックパッキング用のストーブの火力調整と同じ、つまり「消火」か「ジェット機噴射」かのどちらかだったのだ。それに加えて手術を終えたばかりの犬にも見えなくないような、おかしな風貌。 そういうわけで、僕のR2は押し入れのなかで過ごすことがほとんどだった。
同僚に新しいR2を試してほしいと言われたとき、正直僕は乗り気ではなかった。だって、ウール製のものとか、真新しいフーディニとか、彼の持っている玉手箱にはほかにも何かあったはず。でも選択肢はキャプリーンかR2しかなかった。そしてそのときあったのが僕に合うMサイズだったということで、R2が僕の手に渡ったのだ。
この製品に関しては、サイズについて気を留めることに注目するべきだと思う。フィット感はこれまでのR2と同じように、他のアウターシェルの下に着ることができるぐらいスリムで、けれどもアンダーレイヤーを着ることができるぐらいの余裕があるもの、ということだった。前のモデルでは、僕が快適に着ていたサイズはLだった。新しいモデルではサイズMでちょっとぴったりした感じの、前のモデルでLを着ていたときと同じようなフィット感がある。ぴったりといっても、「スタートレック」のオーディションを受けるようなぴったり感ではなく、「チーズフライをもうひとつオーダーできるかもしれないな・・・」程度のぴったり感だ。僕は身長182センチで体重83~86キロ程度。胸囲は106センチで腕の長さは86センチ、ウエストは81~86センチ(チーズフライ摂取後)のあいだを行ったり来たり。どこかの方向に数センチでも広がれば、僕はそのスタートレックのオーディションを受ける準備はすっかりOKな体格だ。
ここらでこの役立つかどうかわからないレビューには小休止が必要だろう。「製品テスト」というコンセプト自体の問題になるが、これはそれぞれの人にとって、それぞれ異なる意味をもつ、非常に奇妙な言葉である。読者の皆さんにとって、これはどういうことか?つまり僕はR2の製品テストでアイスクライミングやバックカントリースキーをしたわけじゃない、ということだ。僕が着用したのは、気温1℃から13℃のなかでハイキングしたとき。キャンプで座ってお気に入りのビールをちびちび飲んだりしたときに着ていた。それからキャンプのときに非常に重要になる枕としても活用した。そしてこうしたことをすべて試したあと、僕はR2に対して新しい認識をもつようになり、新しい使い道を見つけた。それは、快適性と静寂を軸に展開する道だった。
僕の彼女が先に言ったように、僕たちがハイキングしたときには風が吹いていた。というか強風だった。総合的にみると、僕は風のことはあまり気にならない。逆に山にいることを再認識できるよいものだと思う。だけど僕は耳がいい方ではない。だから強風は邪魔になる。とくにジャケットがはためくような風になると、まるで自分の頭をポテトチップスとくしゃくしゃの新聞紙と一緒に乾燥機に突っ込んだような音がする。もしもバックカントリースキーをしているときに友達が「雪屁を落とすから注意して!」って叫んでも、僕の耳には「コーンナッツを食べながらテレビをみろよ!」なんて聞こえてしまい、どちらにもいい結果にはならない。彼女とバックカントリーに行ったことがある男なら、誰でもこの台詞の力を知っている。「寒いわ。もう帰りましょうよ!」 そして、そんな彼女の台詞を聞き逃してしまうと、急に雪屁が崩れ落ちてくるようなひどい状況にいることに気付かない。
こうした理由からも、R2はとくありがたいと思った。この風の強い寒いコンディションのなかで、こいつはなぜか僕を温かく保ち、音も聞こえさせてくれていた。僕の頭はまだ乾燥機のなかにあったが、新聞とポテトチップスは取り除いてくれたようだ。それはまるでお告げのようだった。夏はガイドやインストラクターとして働いているが、現実では山の露出度が増していくにつれて、コミュニケーションの必要性も増していく。たとえば、何を叫んでいるのかちゃんと聞きたい場所は、強風にさらされるカンテなどだったりする。R2を試してみるまで、静かな素材を身にまとうだけで状況がこれほど改善するなんて思ってもいなかった。正直いって、どうしてこんなことが可能になったのかは僕には分からないが、新しいモデルは通気性を高めながらも、耐風性のような特長も持ち合わせているようだ。僕をドライに保ち、けれどもこれまでの素材がもっていたあの、体をナイフが突き抜けるような感覚はない。通り過ぎる鳥に僕は告げる。「もう君が与える寒気とはおさらばだ・・・」と。
この完璧に調整された通気性を備えながらも改良された肌触りと、そして文句無しにパックと共存するポケットのデザインで僕はR2を見直した。寒くて湿った旅でなければ密かにアウターレイヤーとしても活躍するレギュレーター・フリースとして、R2は僕のワードローブでの地位を確立したのだった。