ニックの正体とは

by ジョシュ・ワートン

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ラックからヘックスを取り出し、クラックの奥深くに押し込んだ。霧氷が厚く張り付いていて、クラックのエッジがわかりづらい。ヘックスが霧氷をグシャグシャと砕いて食い込む。念のためアイスアックスで叩きつけ、それから強くグイッと引っ張ると、ヘックスはあっさり抜けてしまった。

スコットランドの冬のテクニカルクライミングがはじまったのは20 世紀半ばだが、注目すべきは、70 年近く前に初登攀されたルートがいまも現代のクライマーからの尊敬を勝ち取っているという点。数多くの冬季登攀用のツールや技術も、ここで生まれた。そんな長く豊かな歴史のおかげでトラッドのミックスクライミングのメッカとなったスコットランドに、マイキー・シェイファーとスティーブ・ハウスと俺の3 人は巡礼に来ていた。スコットランドが特別なのはその歴史のせいだけではない。非情な天候と厳格なトラッドクライミングの倫理規範の組み合わせが、スコットランドの冬季登攀を世界に類を見ない独特なものにしている。

【 写真上:スコットランドでの第1 日目:「サベージ・シルト」の上でニックと握手を交わすジョシュ・ワートン。「ザ・シークレット」が10 センチの霧氷に覆われていることを発見するのは、その後まもなく。スコットランド、ベン・ネヴィス Mikey Schaefer 】

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by アン・ギルバート・チェイス

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体重を支えられる箇所を探って不安定な雪のヘッドウォールにアイスツールを打ち込むと、眼下には深まりゆく闇のなかでジェイソンとキャロが、私が落とす雪と氷の絶え間ない集中砲火を避けようとハンギングビレイで身を寄せ合っているのが見えた。もう16 時間登りつづけていた。私はふたたびアイスツールを叩き込み、腕を肘まで雪に埋めると、最後の頂上尾根へとつづく急な雪庇の上に唸りながら這い上った。

肺いっぱいに冷たい薄い空気を吸い込んだ。暗くなる寸前の光に輝く山頂が見える。少なくともあと2 時間はかかるだろう。目前には暗雲の壁が迫っていた。

【 上:ガルワール・ヒマラヤの広大さに包まれるアン・ギルバート・チェイス。インド、ウッタラーカンド州 写真:Jason Thompson 】

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フレッドにつづいて

by コリン・ヘイリー

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はじめてフレッド・ベッキーに出会ったのは、シアトルに拠点を置くアルピニスト、アレックス・バーテュリスの家でのディナーパーティだった。とはいっても当時の僕は2 歳で、のちに母からこのときのことを聞いたのだけれど。「愛想がいいとはいえなかったわね。さっさと部屋を出て、地図や写真なんかを見にいっちゃったわ」という母の言葉はいかにもクライマーではない人間、あるいは趣味程度のクライマーが言うことで、フレッドの功績の偉大さをわかっていない。身なりはだらしなく徹底した倹約家で、決して1 か所に定住しないといったところがフレッドの第一印象だが、そうした彼の印象は80 代後半であるいまも終わりなきクライミングの旅をつづけているという放浪人生の現れである。これらは欠点などではまったくなく、山に登るという情熱に人生のすべてを捧げた者の意識的な選択だ。フレッドの特徴を欠点とみなすのは、アインシュタインが相対性理論を書くのに時間をかけ過ぎたと非難したり、ベートーベンがピアノの前に座って人生を無駄にしたと嘲笑したりするようなものだ。フレッドの一見雑然としたライフスタイルは、じつは一意専心クライミングに励むための綿密な計画なのだ。

【 『ダートバッグ:フレッド・ベッキーの伝説』からのスクリーンショット 写真:Fred Beckey Collection 】

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ダートバッグ:フレッド・ベッキーの伝説

by デーブ・オレスキー

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ことのすべてのはじまりは、きっと読んではもらえないだろうと思いながら自筆で手紙を書いたとき。まさか返事をもらえるとは考えてもみなかった。

まずは、住所があるかどうかも定かではない男のそれを探さねばならなかった。

僕はずっと自分が愛するスポーツの先駆者たちに興味を抱いていた。地図はあやふやで装備も重かった時代に、未知の領域に僕らを招く道を開拓した真の探検者たち。ドキュメンタリー映画の制作者として僕はたびたび思いを馳せていた――頑強さにおいては比類のないこれらの男性と女性は、完璧な映画の主人公なのではないかと。

【 映画の制作中にフレッド・ベッキーのアーカイブから発掘された何千もの貴重な代物のひとつ。場所不明。写真:Fred Beckey Collection 】

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ベアーズ・イヤーズが国定公園として保護されるべき5つの理由

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地球にはユタ州南東部のベアーズ・イヤーズ地域のような場所は他にありません。インディアン・クリークの世界級のクラック・クライミング、アバホ山脈のシングルトラックのバイクライディング、グランドガルチのバックパッキングからサンフアン・リバーの川下りまで、ここには冒険が豊富に存在します。しかしその価値はクライミングやバイクライディングだけではありません。10万以上の考古遺跡を有するこの場所はまた、数多くの南西部の先住民族が先祖の故郷として知る文化的な景観でもあります。

【 この地を国定公園に指定しないのは無責任だ。写真:Josh Ewing 】

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チャルテン2015~2016年

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by コリン・ヘイリー

昨年のパタゴニアの登攀シーズンでは、おもにマーク=アンドレ・ルクレアとアレックス・オノルドと登り、僕にとって最高のシーズンだった。トラヴェシア・デル・オソ・ブダの初登、エル・アルカ・デ・ロス・ヴィエントスの再登かつダイレクトのバリエーション、トーレ・トラバースのほぼワンデイを含む数々の登攀をした。僕の人生のなかで最も成功したクライミング遠征で、これ以上の登攀シーズンはないだろうとマジで思った。

その1年後、自分でも驚きなのだが、今季こそが自己最高のシーズンだと言える。もちろんそれは概して3つの大きな要因(好天、良好なコンディション、優れたパートナー)の結果ではあるが、今年はこれまでに比べてより精神的な強さを感じたとも言える。理由はともあれ、今シーズンは何かピンとくるものがあり、これまでよりずっと自信を感じたと思う。

編集者記:ロロ・ガリボッティからスタートした2015~2016年の「Vida Patagonia」。締めくくりは、コリン・ヘイリーのシーズン終わりの詳細レポートからの抜粋です。

[ 2度目の単独登攀となるチャルテン山頂にて。1度目の登攀に比べるとかなりリラックスできた。写真:コリン・ヘイリー ]

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2015年~16年パタゴニア・シーズン「パタゴニア・ドール」賞

by ロランド「ロロ」ガリボッティ

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先シーズン、パタゴニアでは多くの歴史的登攀がなされたが、僕の「パタゴニア・ドール」賞は私心のない、そして永続する、ある非登攀に贈りたい。

その勢いは2014年後半、僕にe-mailをくれたクライマーのステファン・グレゴリーとともにはじまった。「僕は来シーズン、チャルテンに戻るつもりですが、お返しのために自分の時間をいくらか割きたいと思います。排泄物管理についての計画は何かありますか? 私は既存のプロジェクトを支援するために助成金申請の書類を作ることができます」

写真上:セロ・フィッツロイから下降すると、写真中央右側にラグナ・カプリが見渡せる。チームはウィルダネス・ラトリン・トイレの設営に、ハイカーに人気でエル・チャルテンに比較的近いラグナ・カプリを選んだ。アルゼンチン領パタゴニア。写真:Dörte Pietron

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The Vida Patagonia : パタゴニア・ライフ

by ロランド・“ロロ”・ガリボッティ

ロロと、そして興奮気味のパタゴニアのアンバサダーと数人の仲間たちが、パタゴニアの登攀シーズンからの写真とストーリーをシェアしてくれます。こちらの遠征ページでご覧ください。この地域での登攀遠征を計画中でしたら、皆様の写真に#VidaPatagoniaのタグを付けていただくと、本ページに掲載されます。

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チャルテン山塊の山々はその空を突き抜けるような切り立った岩峰により、世界でも最も印象的なものだ。それらは優れた花崗岩から、ユニークながらも野性的な霧氷の形状まで、クライマーが切望するすべてを有し、東にはパタゴニアの限りない草原、西には広大な氷冠と太平洋のフィヨルドへと落下する巨大な氷河のネットワークという劇的な環境に位置する。

山塊の天候は「吠える40度」と呼ばれる南太平洋を吹き抜ける西向きの卓越風の影響を受け、その困難さと急激な変化で悪名高い。この地域の恐るべき評判は多くのクライマーを寄せつけないが、なかにはそれを刺激的だと感じる者もいる。南半球が夏のあいだ、地球上で最も素晴らしく強烈で楽しいアルパインクライミングを求め、世界中のクライマーがエル・チャルテンに集う。

写真上:パタゴニア2015年シーズン。写真:Mikey Schaefer

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解体

by オースティン・シアダック

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汗まみれの体にホールバッグを担ごうともがくと、それはブタのごとく甲高い抗議のうなり声を上げた。俺はそれよりもさらに大きなうめき声で対抗する。1か月のビッグウォール遠征に必要なロープ、カム、ピン、ビーク、ポータレッジ、テント、食料、燃料、その他諸々を詰め込んだ30キロ以上の重みが、背骨に深く食い込む。俺はすでに、同じようなホールバッグを担ぎ、ベースキャンプまでの約25キロメートルを2往復していた。そんな重荷を背負った俺たちは皆、花崗岩の上で膝をよろめかせ、疲労困憊で重い足を引きずっている。

「あれを見ろよ!」と誰かが興奮して叫んだ。パタゴニアを象徴するトーレス・デル・パイネのビッグウォールが岩だらけのモレーンから突き出し、雲ひとつない青空にサメの歯のようなギザギザの輪郭を描いている。どの面も険しい花崗岩と雪で形成され、尖峰がまぶしい太陽に向かって900メートルもそびえている。俺たちは喜びと信じられない思いで喚声を上げた。1年以上頭のなかを占領してきた岩壁の下についに立ち、夢が実現するのを感じる。いよいよ登攀だ。

写真上:この場所にたどり着き、この風景を見るためにかけた1年もの執着と計画がついに実った瞬間。エル・チャルテンへの道にて。アルゼンチン、パタゴニア Matthew Van Biene

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愛すべきクライミングバカ、今井健司

by 横山勝丘 (パタゴニア・クライミング・アンバサダー)

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ネパールヒマラヤ、チャムランという山の北壁に魅せられた今井健司は、その壁の基部にいくつかの痕跡を残したまま、姿を消した。ヒマラヤの壁のソロ。それが夢だったという。いつもワイワイと楽しく登っている姿からは、まさかそんな夢を抱いていたなんて、想像さえできなかった。ぼくの知らないケンシがまだまだたくさんいたのだと、思い知らされた。

【 写真:横山勝丘 】

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クリーネストライン

アウトドアウェアを製造/販売するパタゴニアの社員、友人そしてお客様のためのブログです。パタゴニアについては patagonia.com/japan をご覧ください。

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