カスケードのリズム

by コリン・ワイズマン

Top
「ただ地元にとどまってウインドリップに乗りたいだけなんだ」とジョシュ・ダークセンは言った。それはシンプルな主張であり、シンプルな目標だった。

2014 年 4 月、僕たちはオレゴン中央部のサウス・シスターで数日間キャンプしていた。キャンプ地となる山の中腹にたどり着くのには時間がかかったが、神経がすり減るような場面はなかった。ハイウェイ372 号線から整備された雪道を、スノーモービルではなくファットバイクで 16 キロ進むという目新しい手段を使ってアプローチし、そこからスプリットボードでハイクアップした。そして南側の山腹にある春の深い雪塊を掘ってベースキャンプを設営した。

豪雨でできた深い溝を避け、周辺を探索しながら 3 夜を過ごした。ダークセンはシーズンのはじめに見た積雪層との変化に注目していた。僕たちが滑ったのはほんの一部だけだったが、滑降に適した峡谷をいくつか見つけた。

【 自分の裏庭にマウント・マクラフリンのような予期せぬ秘宝が隠されているのなら、冬中オレゴンにとどまるのはちっとも悪くない。写真:TYLER ROEMER 】

続きを読む "カスケードのリズム" »

ジャンボ・ワイルド:聖域と野生地

by ロビン・ダンカン

Top
ジャンボ・バレーのパーセル山脈のパウダーの秘められた奥地には、ちっぽけなコンクリートのスラブがあります。放棄されたジャンボ・グレーシャー・リゾートの基礎です。それは環境認可書が無効になる前にグレーシャー・リゾートが公式にスキー場の建築に着手しようとした最後の試みの名残りです。

地元民が25年間戦いつづけているジャンボ・グレーシャー・リゾート計画はまったく意味をなさないものです。ブリティッシュ・コロンビアにもう一つ別のスキー場は必要なく、しかも野生のパーセル山脈のど真ん中に、またすでにすべての街に独自のスキー場がある地域ではなおさらです。私たちに必要なのは野生地であり、クトゥーナーハ族の神聖な価値への尊敬の念とグリズリーベアが自由に歩き回ることのできる場所なのです。

【 「いつかジャンボ・バレーのような野生地を私の子供たちに見せたいです。彼らが自分の内に野生地を培い、私たちに委ねられた世界を気遣ってくれるように」—リア・エバンス。ブリティッシュ・コロンビアのパーセル山脈ジャンボ峠にて。写真:Garrett Grove 】

続きを読む "ジャンボ・ワイルド:聖域と野生地" »

高千穂平

by 島田和彦

1

静粛と躍動へのグライド

"現代は「多様な価値観」という言葉で、本当に価値のあるものが退けられる時代のように思う。価値あるものはそう多くない。やるに値することを探し当て、生を全うすることは、砂漠で針を探すほどに困難なことだ。アルピニズムとは、その数少ない価値あるものなのだ。" ー 新谷暁生著「北の山河抄」

「いやー、この雨のおかげでスパイン並みの雨溝とカチンカチンの硬い雪になっちゃいましたよ。しかも、ボトムはデブリのオンパレードです。どう考えても無理ですね。コンディションが元に戻るためにはあと2、3回はドカ雪が降らないとダメですよ」
僕は光に照らされて壁に映る影を、力なくただ見つづけるだけだった。

【 中千穂平ルンゼ全容。全写真:MATSUO KENJIRO 】

続きを読む "高千穂平" »

谷口けいと、カヒルトナ氷河の上で

by 鈴木啓紀

南アルプスでのアイスクライミング 2012年2月
他に誰もいないアラスカの氷河のベースキャンプで、ふたり差し向かいでウィスキーを飲んだことをよく覚えている。その遠征は、氷河を取り巻く壁のなかに1本、美しいラインを引くことはできたものの(それはたしかに素晴らしいクライミングだった)、全体としてみれば失敗で、遠征の最終盤に行われた飲み会での酒はとりわけ苦いものだった。

その遠征を迎えるまで、僕とけいちゃんとのパートナーシップはおおむね完璧だと思っていた。たぶん彼女もそう思っていたと思う。その遠征を控えた冬は、槍ヶ岳周辺の継続登攀、北岳バットレスのワンデイクライミング(厳密には24時間をだいぶオーバーはした)、戸隠P3尾根のワンナイトクライミング、錫杖前衛フェイスや明神岳の壁、といま思い返しても印象的で充実した登山をふたりで積み重ねたシーズンだった。

【 南アルプスでのアイスクライミング 2012年2月。 全写真:鈴木啓紀 】

続きを読む "谷口けいと、カヒルトナ氷河の上で" »

ある日のクライム&ライド

by 旭 立太(スノーボーダー/ガイド)

Aflo_DLRA_160203_0605s
山の楽しみ方は色々ある。クライム&ライド。私がこの遊びをはじめたのはここ数年のことだ。

以前の私はというと「なるべく快適にアプローチし、よい斜面を滑りたい」、つまりは「滑るために山へ行く」というのがおもな目的だった。リフトで標高の高いエリアまで行き、小一時間ほどのハイクをしたら、それ以上の充足感を得られる滑りをしたい……。いまでもそのようなお得感のあるバックカントリーライディングは好きだが、小さな失敗を積み重ねて得た山での経験と成功、そして年齢を重ねるにつれて、近年は楽しみ方の幅が大きく広がってきた。それがさらに広がったのはスプリットボードを手に入れてからだろう。スノーボードマウンテニアリングの世界が一気に広がった。

たとえば2013年のデナリ山頂からのスノーボード滑走。スプリットボードは氷河地形での移動に非常に役立った。山頂からの滑走と言えば聞こえはよいが、20日近く氷河上で行動しても、滑るのはそのうち3時間にも満たない。何日も歩き、キャンプし、アイゼンを履いて山を登っても、滑る時間は割合としてはわずかである。しかも滑ると言っても大半が移動であり、「気持ちいい」という滑りをしたのはそのうちの15分ほどではないだろうか。とても効率的とは言えない。滑るためというより、滑りを交えた山行だった。1つの山行、あるいは1つの旅のなかに、滑りが1シーンでもあればそれでいい。山で過ごす色々な時間を、色々な形で楽しめるようになったのだと思う。

【 全写真:松尾憲二郎/アフロスポーツ

続きを読む "ある日のクライム&ライド" »

ニックの正体とは

by ジョシュ・ワートン

Top
ラックからヘックスを取り出し、クラックの奥深くに押し込んだ。霧氷が厚く張り付いていて、クラックのエッジがわかりづらい。ヘックスが霧氷をグシャグシャと砕いて食い込む。念のためアイスアックスで叩きつけ、それから強くグイッと引っ張ると、ヘックスはあっさり抜けてしまった。

スコットランドの冬のテクニカルクライミングがはじまったのは20 世紀半ばだが、注目すべきは、70 年近く前に初登攀されたルートがいまも現代のクライマーからの尊敬を勝ち取っているという点。数多くの冬季登攀用のツールや技術も、ここで生まれた。そんな長く豊かな歴史のおかげでトラッドのミックスクライミングのメッカとなったスコットランドに、マイキー・シェイファーとスティーブ・ハウスと俺の3 人は巡礼に来ていた。スコットランドが特別なのはその歴史のせいだけではない。非情な天候と厳格なトラッドクライミングの倫理規範の組み合わせが、スコットランドの冬季登攀を世界に類を見ない独特なものにしている。

【 写真上:スコットランドでの第1 日目:「サベージ・シルト」の上でニックと握手を交わすジョシュ・ワートン。「ザ・シークレット」が10 センチの霧氷に覆われていることを発見するのは、その後まもなく。スコットランド、ベン・ネヴィス Mikey Schaefer 】

続きを読む "ニックの正体とは" »

シンプルなフライから学んだこと

by イヴォン・シュイナード 

Top

私がこれまでにやってきた――登山やホワイトウォーター・カヤックから、スピアフィッシングや道具作りまで――さまざまなアウトドアへの探求や、手作業で何かを作ることにおいては、初心者からベテランへの進歩とはいつも、複雑さからシンプルさへの旅だった。イラストレーターがアーティストになるのは、より少ない筆さばきでメッセージを伝えることができるようになったときだ。

フライフィッシングはまったく逆方向に進んできたように思う。必要以上に複雑で金のかかる娯楽となり、何百種ものフライラインやハイテクロッド、あるいはトラックを止められるほどのドラグを備えたリールを選べる。アングラーならトラウトやサーモンの走りを止めるにはシンプルなドラグで十分だとわかっているにもかかわらず、釣り産業に不安感を煽られて、最新のギアと最新のフライを装備しないと釣りが楽しめないような気になる(正直、私も複数のロッドとリールを所有しているし、ある種のメイフライの特定の成長段階を正確に疑似するフライが見当たらないと悪態をついている自分に気付いたこともある)。

続きを読む "シンプルなフライから学んだこと" »

つながる海森川里:種子島の子供たちとの「うみとも」プロジェクト

by 内野加奈子
 
Top
地球の70パーセントという広大な面積を占める海。その海にはミクロレベルのプランクトンから、地球上で最大の生きものといわれるシロナガスクジラまで、多種多様な生きものたちが暮らしています。一般的に、水深約200メートルまでの海は「沿岸域」と呼ばれ、砂浜や干潟、磯やサンゴ礁など、さまざまな環境が広がっています。沿岸域は海全体の面積からするとたった8パーセントですが、太陽の光の届く浅瀬の海は生きものの量も多く、その数パーセントのなかに、夥しい数の生きものたちが暮らしています。

陸地からすぐの沿岸域に暮らしている生きものたちは、当然ながら川を通じて海へと流れる下水や農薬や土砂など、陸からの影響を大きく受けながら暮らしています。けれども、直接目に触れないものへの関心はどうしても集まりにくいもので、そうした陸と海のつながりに注目されることはなかなかありません。身近な森の木がすべて枯れ果て、突然砂漠のような状態になれば、いったい何があったのだろうと大きな注目を集めることになるかと思いますが、もし仮に海のなかで同じような状況が起こっても、その現状が実感をもって受けとめられることは、なかなかむずかしいかもしれません。実際のところ陸から海への影響は、農地にしみ込んだ化学肥料や農薬など、その発生源を特定しにくいものが多いという現実もあります。

そんななか、普段の暮らしのなかではなかなか触れることのできない、海、森、川という自然のつながりや私たちの生活との関わり、そして循環を損なうことなく自然からの恵みを受け取っていくための知恵や技術などを、体験をもとに学ぶことができる場を生み出したいと、今年はじめに種子島で「うみとも」プロジェクトとよばれる取り組みがはじまりました。それは豊かな自然の残された種子島をフィールドに、海と森、海と畑のつながりを実感してもらうプロジェクトです。

【 写真上:Kanako Uchino 】

続きを読む "つながる海森川里:種子島の子供たちとの「うみとも」プロジェクト" »

by アン・ギルバート・チェイス

Top
体重を支えられる箇所を探って不安定な雪のヘッドウォールにアイスツールを打ち込むと、眼下には深まりゆく闇のなかでジェイソンとキャロが、私が落とす雪と氷の絶え間ない集中砲火を避けようとハンギングビレイで身を寄せ合っているのが見えた。もう16 時間登りつづけていた。私はふたたびアイスツールを叩き込み、腕を肘まで雪に埋めると、最後の頂上尾根へとつづく急な雪庇の上に唸りながら這い上った。

肺いっぱいに冷たい薄い空気を吸い込んだ。暗くなる寸前の光に輝く山頂が見える。少なくともあと2 時間はかかるだろう。目前には暗雲の壁が迫っていた。

【 上:ガルワール・ヒマラヤの広大さに包まれるアン・ギルバート・チェイス。インド、ウッタラーカンド州 写真:Jason Thompson 】

続きを読む "嵐" »

最悪の発想

by ルーク・ネルソン

Top
「狂気は必要じゃないけど、助けにはなる」というのがタイの口癖だ。長年にわたる僕たちの無謀な遠征が何度この言葉で語られてきたか……は、もう数えても無駄なので止めていた。そのときは、とにかく現況を生き延びることに集中しようとしていた。

ランニングらしき行為はすでに何時間も前に終わっていた。日は差していたが、寒かった。氷点下32 度という寒さだ。僕たちが向かっていた暖を取るための山小屋へとつづく道は、数キロ前で整備も途絶えていた。午前中に2 台のスノーモービルが追い越して行ったものの、その軌跡も役には立たなかった。僕たちの体重を支えてくれたかに思えた軌跡はときに何の前触れもなく、片脚を股までズボッと雪のなかへと吸い込んだ。雪面に残ったもう片脚を雪に埋もれさせないよう、なんとか脚を抜き出すために格闘するのは、体力を消耗した。

【 上:外が摂氏マイナス30 度に近いときは、できるだけ時間をかけて地図と相談するのも悪くない。今後のルートをゆっくりと練るタイ・ドレイニーとルーク・ネルソン。ワイオミング州ソルト・リバー山脈。写真:Fredrik Marmsater】

続きを読む "最悪の発想" »

クリーネストライン

アウトドアウェアを製造/販売するパタゴニアの社員、友人そしてお客様のためのブログです。パタゴニアについては patagonia.com/japan をご覧ください。

クリーネストラインとは

RSSフィード

Twitter

© 2013 Patagonia, Inc.